役場に併設されている食堂のシェフこと、前沢慎太はかつて壱ノ笠にあった「料理座」というレストランに勤めていた時のお話である。 (※連載当時のまま掲載しているので、誤字脱字があります)
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「おはよう、前沢くん」 その呼び声に気づいた雫は、何時ものように挨拶をするが、前沢は続け様に聞いた。 「今日ってたしか、例の日…ですよね」 「確かに、そのとおりね」 「でも、俺以外誰も居ないんです。先輩や同期達…みんな……」

2020-10-22 19:19:41
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不安が混じる声を聞いた雫は、微笑みを浮かべながらに「私、皆の居る場所、知っているのよ」と静かに返答する。 「本当ですか…!」 「今から、案内してあげる」 地響きと共に地面が揺れたかと思えば、床の一部が扉のように開く先には階段が続いていた。

2020-10-22 19:26:24
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雫は黙ったまま、手招きをしながらに階段を下りて行く。 ――料理座にこんな階段があったなんて、知らなかったな…。 と思いつつ、前沢も後に続いて階段を下りるが、足元が段々と暗くなるし、なんだか生温く感じてもしまう。 「この先に、…みんな、いるんですか?」

2020-10-22 19:31:08
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前沢の問いに対しても返答しない雫に対し、前沢は転んでも構わない勢いで雫の方へ近づき肩を掴んで呼んだ時、雫は既にその歩みを止めていた上に「ココには、だれも居ないの…」と、泣いている声でようやく前沢に返答したのだった。

2020-10-22 19:35:55
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その頃、料理座ではオーナーは対面に居る者と睨み合いをしており、向こうから『さて、オーナー殿、私のメインディッシュは何処に居るのかご存知かな?』と尋ねてくる。 「私も今朝から探しているのですが、中々に見つからないもので…」 『口答えをする気か?』#料理座の怪人

2020-10-23 20:23:12
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「とんでもございません!私は本当の事を言っておりま………」 その先の言葉は消え失せ、跡形も無くなった場所には、もう一人、声を失って身震いが止まらなぬ者が居た。 『君にも一応聞こうじゃないか、私のメインディッシュは何処に行ったのかを』

2020-10-23 20:25:27
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「わ、わたしも存じあげま………!」 遂に一人となった部屋で、その者は『さぁて、私の雫は何処に居るのかを、探すとしようじゃないか』と言いながら部屋を出て行った。

2020-10-23 20:28:14
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ここには、誰もいない。 一ノ宮 雫の言った事は理解できる。 では何故、今のような状況になっているのか、前沢慎太にっとては分からない事だらけだが、前沢は雫の眼を真っすぐ見ながら「一体、何があったのか、教えてくれますか?」と聞いた。#料理座の怪人

2020-10-24 19:04:44
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涙を拭き、ようやく喋れる程に落ち着かせながら、雫は語り出そうとした時『見つけたぞ、私の雫…』と、低い声が向こう側から聞こえると、雫は前沢の手を引いたかと思えば、そのままの勢いで走ってと言ったのを聞き、前沢は何が何だか分からないまま、雫の言う通りに走り始める。

2020-10-24 19:13:28
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互いの距離が分からないままでおもむろに走り続けていると、先に見えた光が入る所が見え、二人は暗闇を出るように光へ向かったが先に待ち受けていたのは、炎が燃え盛る料理座の姿だった。

2020-10-24 19:16:05
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燃え盛る料理座から離れの寮にある空き部屋から出た二人だったが、その炎は既に周りの木々にも飛び火しており、二人の所に来るのは時間の問題。 雫はようやく足を止め、前沢の顔を見ながらに「前沢くん、本当に、ごめんなさい…」と静かに謝り、頭を下げる。#料理座の怪人

2020-10-25 19:28:42
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正直に言えば、今の状況は頭では処理もしきれていないし、理解も出来ていない。 ただ、解る事と言えば、今の光景は何処かで見た事がある上に、自分がこの後、彼女に向かって「大丈夫、ですよ」と、少し場違いな事を言うのも解っていた。

2020-10-25 19:37:43
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が、その次の事は、口に出すのも、思い出す事もしたくはない。

2020-10-25 19:39:50
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『逃げても無駄だぞ、雫』 人の形をした者が炎を引き連れて前沢と雫を見つけ出し、こちらに向かってくる。 「アナタは一体、何者なんですか」 相手に睨みつけながらに聞くと、向こうは『私は雫をこの場所を案内させた者でもあり、ありとあらゆる芸術を愛する者だ』と答えたのだ。

2020-10-25 19:41:47
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『雫、こちらに来なさい』 その声は優しさの中にも強制の意味が含まれる中で、雫はゆっくりとそちらの方へ歩き出すのを見た前沢は、彼女の手を掴み「行っては駄目です!」と大声で叫ぶと、歩む足が止まったのだ。#料理座の怪人

2020-10-26 19:58:12
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その姿を見て、真っ先に思ったのはただ一つ。 ――何故、彼女の足が止まった?私の力が効いている筈なのに…?! 向こうの気は知らず、雫は今一度、前沢の眼を見て言った。

2020-10-26 20:03:22
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「前沢くん、短い間だったけど、私……アナタと一緒に料理が作れて、とても楽しかった」 雫の眼には涙が溢れ、声も震えてはいたが、その顔は何度も見て来た笑顔そのものだったからこそ「俺もです!」と、その眼に何かが流れているままで、前沢は何時もの調子で答えていた。

2020-10-26 20:07:39
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互いに握る手が徐々に引き離されてそうになってゆく、前沢はなんとしてでも離さないと思いながら力強く握る中、段々と二人の元にも炎が近づき、風に乗って火の粉が前沢の手に近づく姿を見た雫は言う。 「もう、無理はしないで、前沢くん…」

2020-10-26 20:13:13
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「この手は、絶対に、放しません…!」 やがて、炎が前沢の手にも燃え移り始めるや、悲鳴を上げる前沢の姿を見た雫は「もう、やめて下さい…!そちらに行きますから……」と、大粒の涙を流しながらに訴えの声を聞くや、向こうは再度に問う。 『その言葉に、嘘偽りはないな?』

2020-10-26 20:25:03
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ゆっくりと頭を縦に頷かせると、前沢の手に移った炎は瞬く間に消え失せていった。

2020-10-26 20:27:34
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前沢の手から炎が消えた直後、前沢慎太と一ノ宮 雫の距離は一気に離され、爆風によって吹き飛ばされた前沢は、なんとしてでも雫を救おうと立ち上がり、再び炎の先に向かうが、これ以上は近づくなと言わんばかりに炎が立ち塞がってしまう。#料理座の怪人

2020-10-27 20:25:57
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何度も何度も立ち向かって彼女を助けようとした時、遅れてやってきた大雨に打たれる中で、前沢は涙を流しながら大声で言い叫ぶ。 「今更降っても、遅いんだよ!!……馬鹿野郎!!!」

2020-10-27 20:30:16
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「あの時が夢だったならば」と何度思ったことだろう、しかし、あの時の出来事はこの目で見て来た現実でもあり、かつての過去そのもの。 あの時の話を誰かに話すつもりはない、だって、話しても直ぐに把握出来ないだろうし、何より、余りにも現実味が薄すぎると俺は思うのだ。 #料理座の怪人

2020-10-28 19:12:59
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あの後、周辺の家から連絡を受けた警察と火を消しにやってきた消防車、けが人を運ぶ為に来た救急車に俺は運ばれたが、結局の所は手の甲と顔に火傷が出来ただけで、大事には至らなかったが、念のためにと言われ数日間だけ病室で過ごしていた。

2020-10-28 19:18:04
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その間、俺の身を心配しに来た両親や姉と弟が見舞いにも来た。 「慎太ちゃん…、大丈夫だった?」 「あぁ、俺は大丈夫だよ」 隣に居た弟の慎呉は「しかし、あれだけの火事で兄貴だけ無事だったっていうのも……」と、言った時にハッとした顔で口元を隠すが時は既に遅い。

2020-10-28 19:22:39
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「慎呉、それはどういう事だ」 気まずくなって目を背ける慎呉の代わりに、姉の史織は慎太の眼を真っすぐ見ながらに伝える。 「まだ公には出ていない事だけども……、例の火事で助かったのは…慎太ちゃんだけなのよ」 「俺、だけ……?」

2020-10-28 19:27:58
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「消防士さんや警察官さん達も言っていたわ、あれ程の規模の火事ならば、まず人は助からない。仮に助かったとしても、今の慎太ちゃんみたいな助かり方は稀だって……」

2020-10-28 19:34:09
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出来るならば、その現実を受け入れたくなかった。 姉の話を最後まで聞き終えた頃には、俺の目にはまた涙が溢れ出し、ベットで頭を伏したまま、静かに「ごめんなさい」と何度も何度も言う事しか、出来なかった。

2020-10-28 19:37:04
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退院した後は、両親が暮らす実家で過ごしていた慎太だったが、何時までもこのような生活をしている訳にもいかない。 体調は元々悪くなかったが、しばらくの間作っていなかったというのもあり、料理の腕は落ちているのでは?と思いつつも、両親に料理を振舞ってみたが、問題はなかった。#料理座の怪人

2020-10-29 19:11:32
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そんな折、回覧板を受け取って街の広報誌を何気なく読んでいた時だ「壱ノ笠役場併設食堂 新装開店! 料理人募集中」と書かれている記事を見つけ、詳しい事を読む、 「…食堂の料理人、か」 イチからの再スタートとという意味では申し分ない、だが、人前で料理を振るえるだろうか。

2020-10-29 19:15:46
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その不安が過るものの、何時までも立ち止まってはいられない。 そう思った前沢は、履歴書を買いに外へ出てゆくのだった。

2020-10-29 19:16:46
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履歴書の経歴欄で料理座に在籍していた事を書くべきかと悩んでいたが、ウソがつけない性分でもある前沢慎太は、何時も以上に緊張しながらも、なんとか書き上げる。 そこから数日後、前沢の元に役場から連絡が来た直後、直ぐにカレンダーの元へ行くや、面接日に赤丸を付けた。#料理座の怪人

2020-10-30 19:27:27
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面接日当日、指で数えるほどしか着ていないスーツをなんとか着こなし、次の職場になるであろう食堂の方へ向かったが、既に居たスタッフから「面接会場は役場の方だよ」と言われ、慌てながらに前沢はその方へ向かい、なんとかして会場に辿り着く。

2020-10-30 19:30:05
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――自分以外にも希望者は居るんだな…って、当然と言えば当然か…。 そんなことを思いつつも、前沢の名が呼ばれると上ずったような返答をしながらも、面接官が居る部屋に案内され「失礼します」と言いながら入り、椅子に座って間もなく質疑応答のラリーが始まった。

2020-10-30 19:33:44
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どんな質問を聞かれ、どんなふうに返したのか…緊張の方が強かったせいで、正直に言ってしまえば殆ど覚えていなかったが、唯一覚えていた質問と回答はある。

2020-10-30 19:36:43
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「これまでの経験は、アナタにとって糧になりましたか?」 「はい、良い事も悪い事もありましたが……私にとって、過去の経験は、大切な糧です」

2020-10-30 19:37:40
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合否の結果は封書で届けるという話で、いざそれが届くのはいいものの、とてもじゃないが緊張して手が震えてしまったのもまた事実。 両親や姉と弟も見守る中で開けるのだから、なおさらだ。 「兄貴、緊張してるなら、俺が代わりに開けようか?」 「いいや、結構。これは俺が開ける!」#料理座の怪人

2020-10-31 20:23:37
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ペーパーナイフを手に取り、ゆっくりと開け、封筒の中に入っている紙を取り上げ、薄目にしつつ見ていたが「慎太ちゃん!」と姉が喜んだ声を出すや「兄貴、すっげぇじゃん!!」と言われ、ようやく視界をハッキリさせながらに見ると「合格」の文字。

2020-10-31 20:25:55
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「今日は一杯飲むぞ!」と言うのは父親で「お酒は程々にしてくださいよ」と言うのは母親だ。 周りがとやかく言う中で、慎太はただただ、安堵の息を小さくついた後に呟いた。 「よかった…」 【料理座の怪人 前編 完】

2020-10-31 20:28:45
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まとめたひと
伍条 月斗(創作アカ) @5jyouTsukito

基本は自分が考えた創作ッ子達の事を呟いたり、絵を上げたり、お話も書いたりします。偶に違う話等もしておりますが……ようは気まぐれだが基本は創作用アカウントです。(※食べても美味しくない鶏野郎で無言フォローをしたり、時として話すとアツくもなりますがそれでもよろしければです)御用の方はDMまで。

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