(抜粋③)『ファシズムはどこからやってくるか』ジェイソン・スタンリー著、棚橋志行訳、青土社、2020.2.25.

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(抜粋③)『ファシズムはどこからやってくるか』ジェイソン・スタンリー著、棚橋志行訳、青土社、2020.2.25. 第5章、ヒエラルキー HIERARCHY 第6章、被害者意識 VICTIMHOOD pic.twitter.com/hIetlqdA6s

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p.99　ファシズムは、自由民主主義理論の前提になる「平等な尊重」とは完全に矛盾する「力と支配の階層構造(ヒエラルキー)」を定めることが自然の摂理だとする。 　ヒエラルキーは一種の集団妄想であり、ファシスト政治にたやすく利用される。Jim Sidanius & Felicia Pratto の<社会的支配理論>は、

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これらの妄想を、「正当的神話」と名づけて研究している。　" 人間社会は集団をベースに序列的に組織され、ひとつ以上の集団が他集団より大きな社会的地位と権力を享受する傾向がある " 　そこでファシズムは人間が序列的に社会を組織する傾向を利用し、

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ファシスト政治家は「階層(序列)を正当化する神話」を「揺るぎない事実」であると触れ込む。原理としてのヒエラルキーを正当化するのは、自然の法則だ。ファシストにとって「平等の原理」は自然法則を否定するものであり、彼らにとっての自然法則は、ある種の伝統…支配的な伝統…を他の伝統より上へ

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押し上げる。男が女の上に位置し、ファシストの「神に選ばれた民族(国民)」が他集団の上に位置することを自然の摂理とする。1861年、南部連合国副大統領アレクサンダー・H・スティーブンズは「コーナーストーン演説」の名で知られる演説を行った。彼は、合衆国議会が神聖視する「自由と平等の原理」を

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自然の法則を侵害するものとして糾弾した。 " 我々の考えの土台と礎石(コーナーストーン)は、「ニグロは白人と平等でない」という大きな真実の上に置かれている (…) 君たちは創造主が不平等にお創りになったものを平等にしようとしているのだから "

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彼は人種的劣等という不平等を否定する人たちを、「真理という永遠の法則」を拒む「狂信者」であると糾弾した。<南部連合国>はヒトラーの<第三帝国>同様、人種による階層構造の原理である " 自然の貴族主義原則 " を防衛するために建設されたのだと。

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自然界には「価値の序列」が厳然と存在し、その存在が「平等な配慮の義務」を根本から覆す、とファシストは主張する。人種によって同じ米国人が " 受けるに値する人々 " と " 受けるに値しない人々 " という「価値の階層」に分けられてきた長い歴史に、トランプは目をつけたのだ。

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" 値する " と " 値しない " のような言葉遣いをする米国人はまず、人種を区別する言葉ではなく " 働き者 " 対 " 怠け者 " という構図に手を伸ばす。第一に、米国では「肌の黒さ」を「怠惰」と結びつける形でたびたび人種差別が行われてきた。第二に、「よく働く能力」で人の値打ちを測るという概念は

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自由民主主義についての混乱を露呈している。自由民主主義の理論に、基本的な「平等の尊重」はよく働くことで勝ち取られる、という考えはない。何人にも社会の生活必需品を等しく手にする価値がある、というのが自由民主主義を支える考え方だ。

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ファシストによれば、「平等」は自由主義の " トロイの木馬 " だ。オデュッセウスの役が、ユダヤ教徒や、同性愛者、イスラム教徒、非白人、フェミニスト、その他もろもろに与えられかねない。自由主義の「平等」という原則を広める人はみな " 自由という思想に感染した " 騙されやすいカモか、

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ずる賢い企みを胸に秘めて自由主義の理念を広めている国家の敵だ。 　ファシズムの計画は、真の " 民族(国家) " の構成員の「地位喪失にまつわる不安」と「嫌悪すべき少数派集団が自分たちと同等と認知される恐怖」を結びつける。

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20世紀のKKKはユダヤ人を、黒人の人種的平等を後押しする勢力と見なしていた。ユダヤ人は白人の純血を希釈して白人キリスト教徒の民族国家を弱体化させるために黒人の平等を推し進めようとしている、と彼らは考えた。

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自由民主主義の真の守護者を、敵を弱体化させるためにその理念を守っているにすぎないと中傷するのは、古典的なファシスト政治の手口だ。 　ファシストたちの言によれば、自由主義者とマルクス主義者は「平等」と「自由」という理念を推し進めて、彼らの思想を " 感染症 " のように支配者集団間に広め

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その結果、支配者集団の人々は権力を手放すことになる。「女性の平等」の場合、自由主義の理念を受け入れるとファシズム神話の土台である「高潔な家父長制的社会」が破壊される。リンドバーグの " アメリカ・ファースト " 運動は、移民が入り込むことで白人国家の " 純血 " が汚染されるとして、

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自由主義の理念を否定した。現代ロシアと米国のキリスト教右派の多くは、自由民主主義は移民の入国を合法化して「移民による大規模強姦」をもたらし、同性愛とそれに付随する " 性的倒錯 " の罪をいっしょに受け入れることになる、と警告する。

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ヒエラルキーの恩恵に慣れている人たちが「自由主義の平等」を「自分たちが迫害を受ける原因」と考えるように誘導するのは簡単なことだ。ヒエラルキーから恩恵を得ている人たちは自分たちの優越神話を受け入れ、それが社会現実についての基本的事実をふさぎ止める。

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彼らは自由主義者から発せられる「忍耐」や「多様性」を受け入れよとの嘆願にも、そのような訴えは別の集団が権力を掌握する計画の隠れ蓑だと言って、信用しない。ファシスト政治は「階層社会における地位の喪失」が引き起こす「虐げられた被害者意識」を食い物にする。

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📌この喪失感ゆえに、斜陽の帝国は特にファシスト政治の影響を受けやすい。帝国は本質的にヒエラルキーをつくり出し、「自分たちは特別」という神話で植民事業を正当化する。帝国の衰退期に国民は国家的(民族的)屈辱感へと簡単に導かれ、屈辱感はファシスト政治で結集されて様々な目的に役立てられる。

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19世紀の終わりから20世紀の初めにかけてオスマン帝国は大崩壊を経験し、皇帝は1908年に地位を失い、1913年には、「非トルコ人・非イスラム教徒の少数派の存在により脅威にさらされた純トルコ民族」という神話的過去を説く過激な超民族主義者たちに権力を奪われた。

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トルコは1910年代、屈辱と憤りと領土の喪失を利用して、歴史に名をとどめる恐ろしい犯罪を起こすことになった…アルメニアのキリスト教徒虐殺だ。 　2016年6月のネイション誌でグレッグ・グランディンは、16年の選挙戦でトランプの政治手法が効果的だったのは、米国という帝国が下り坂に入っていたから

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だと主張した。彼はこの記事で、帝国は市民の間に「優越」という耳に心地いい神話を引き起こし、そうすることで(さもなければ)政治的困難をもたらすはずのさまざまな社会問題と構造的問題を覆い隠す、と主張した。 　帝国の崩壊でかつて強大だった国の市民たちは、自分たちが特別な存在というのは

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「神話に過ぎない」という事実と向き合わなければならない。バラク・オバマが大統領選に勝利した2008年頃から " 帝国の安全弁は閉じられ、イラクにおける破滅的な戦争と2008年の金融危機の組み合わせで身動きが取れなくなった…。オバマが政権に就いたのは、新自由主義と新保守主義がもたらした残骸の

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中だったため、帝国はもはや情熱を希釈することも、関心を満たすことも、分断をまとめ直すこともできなかった " と。 　📌帝国のヒエラルキーが崩壊して社会の現実があらわになったときには、「優越」というおなじみの耳に心地いい幻想を保存するメカニズムとして、階層構造の社会を懐かしむ気持ちが

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生まれがちだ。文化的、民族的、宗教的、ジェンダー的、国家的な「優越感」を守ろうとする。かつてないくらい根拠薄弱で困難の闘いの結果生まれた「憤懣やるかたない喪失感」と「被害者意識」を食い物にして、ファシスト政治は勢いを得る。