https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5327959 当初は伺か用に考えたものだったはず
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サキノハカ @sakino_haka

彼は人間の脳に記録されている情報についての研究を行なっていた。

2012-08-17 21:38:56
サキノハカ @sakino_haka

彼の研究では、脳に記録されている情報はおおまかには知識記憶と経験記憶からなる(両方の複合的な記憶もある)。知識記憶はそのままknowledge、経験記憶はいわゆる「思い出」で、認識・理解を補助するのが知識記憶、人格形成に大きな割合を占めるのは経験記憶のほうである。

2012-08-17 21:39:20
サキノハカ @sakino_haka

彼には妻がいた。しかし妻は重篤な疾病を患い、長い闘病生活ののち亡くなってしまう。妻の死を受け入れられない彼は、妻の体をそのまま冷凍して保存する。いつか彼の研究が完成したら、彼女から情報を読みだして、新しい体にインストールできる(彼女を蘇らせられる)だろうと考えたためである。

2012-08-17 21:41:37
サキノハカ @sakino_haka

その後彼の研究は進展し、生きている人間からは情報を読み出せるようになった。しかし冷凍した死体の脳からは情報は既に失われている(細胞は破壊され電位差も残っていない)ため、もう読み出すことができないとわかった。

2012-08-17 21:42:50
サキノハカ @sakino_haka

孫だったほうの人格は、はじめのうちは祖父の記憶をすべて知識記憶として処理できていたものの、やがて経験記憶に干渉されてもともとの彼でなくなってしまうが、かといって祖父そのものになれたわけでもなかった。インストール時に初期化を行わなかったためである。

2012-08-17 21:45:07
サキノハカ @sakino_haka

統合後の彼は妻をDNAの方から復元し肉体的に蘇らせる研究に移った。果たして若々しい妻の体そのものは出来上がったが、中身は当然すっからかんのまま、赤子同然だった。

2012-08-17 21:46:52
サキノハカ @sakino_haka

この頃になると記憶の端々から瓦解や忘却が始まり、彼が妻に求めていた本質的なものが抜け落ちていく。もともとは「自分を愛していた妻」を必要としていたのだが、「彼女は私を愛している」という事象は既に条件化(オールオアナッシング、或いは0と1のフラグ)しており、内実を伴わない。

2012-08-17 21:48:11
サキノハカ @sakino_haka

彼は人工的に記憶を捏造する(端的に言うと「妻」をゼロからプログラミングする)ために努力するが、(全くの架空の人物ならまだしも)自分の記憶通りの「他者」の記憶を作り出せるはずもない。(他者の経験は自分の経験ではない、また記憶の中の他者はデフォルトで誇張・美化されている)

2012-08-17 21:50:04
サキノハカ @sakino_haka

一貫性・整合性を欠いた人造記憶では「妻」にはならず、妻の姿をした妻もどきはいつまでも妻もどきのまま、彼は何がいけないのかもうわからない。結局のところ、もうそこにいないものがもうそこにいないものを求めていただけだったという そういう虚しい話

2012-08-17 21:50:50
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まとめたひと
サキノハカ @sakino_haka

ひこうきだいすきバード。なにかしてたりしてなかったり