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楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月7日】 顔をこする。何か、ついてるだろうか。それなら、ひなたが教えてくれてもよかったはずだが。 「うそ、うそ! 冗談!」  けたけたと、釣り眼ぎみのまぶたをきゅっと細めて、笑いながら早足に歩いていく。  栗山くんは足を止めない。舞は、怒る pic.twitter.com/iroHnXTx2y

2022-04-07 08:00:18
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タイミングをうしなって、ボンヤリと立ち尽くすしかなかった。  三歩進んだところで、ひなたが足を止めて、心配そうにこちらを見ていた。 * 「これ、ちょうだい」  昼休み。  わざわざ、図書室に呼び出して。クラスメイトの真鍋孝則。ちょっと小太りで、にきびのある顔。いつも目を伏せていて、

2022-04-07 08:00:20
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月8日】 強く出られると断れないような。  まじめなだけが、とりえの。 「え、」  几帳面なブロック体でさいごの行まで埋めた、両面印刷のプリント2枚。ひらりと、左手でつまみあげて。 「うそだろ、写すんじゃ」 「まるっと同じだったらすぐバレるで pic.twitter.com/cQnyeJiWNX

2022-04-08 08:00:20
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しょ! 同じクラスなんだし」 「そこは、てきとうに変えてさ」 「そんな時間ないもん!」 「だからってさ……、」 「いいじゃん」  机の上に出しておいた消しゴムで、すぐに真鍋の名前を消す。ふたりの字は似ている。日本語ならともかく、アルファベットなら、たぶん、バレない。 「じゃ、これ。あげ

2022-04-08 08:00:21
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月9日】 るから」  白紙の、自分のプリントをおしつける。さっさと、消しゴムとシャープペンシルをペンケースにしまって、立ち上がる。  昼休みはあと15分。ま、なんとかするだろう。 「もう!」  怒ったような声を出すが、──舞が視線をむけると pic.twitter.com/lkMjduUSIO

2022-04-09 08:01:21
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、ちょっと顔を伏せて、黙ってしまう。 「どうもね、」  と、言いおいて。手をふる。 「あの、」  ふと、真鍋が顔をあげて。 「きみ、……左きき、だっけ?」  はぁ、とおもわず声をあげて、左手をみる。  それから、右手を。 「……気持ちわる」  ぼそりと、そう呟いて、舞は図書室をでた。 *

2022-04-09 08:01:23
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月10日】 「……ねえ!」  図書室からでて、渡り廊下へゆく途中。トイレの前。  ひょいと、すぐ右肩から、高い声で。  ちょうどトイレから出たばかりか、片足を廊下に出して、ちょっと首をのばしたような姿勢で。  朝、追い抜いていった、赤い髪留め pic.twitter.com/JC0KAxFUyf

2022-04-10 08:01:22
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の少女だった。 「なあに」  どうしても、この子の名前が思い出せない。たしかに、知っているのに。 「ちょっと来てくれる?」 「なに!」  おもわず、声を高くしてしまう。いらいらしている。 「いいからさァ」 「なにって!」  右ひじを、なれなれしい手つきでくい、と引かれる。左手で、軽くふり

2022-04-10 08:01:24
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月11日】 の少女だった。 「なあに」  どうしても、この子の名前が思い出せない。たしかに、知っているのに。 「ちょっと来てくれる?」 「なに!」  おもわず、声を高くしてしまう。いらいらしている。 「いいからさァ」 「なにって!」  右ひじを、 pic.twitter.com/vPUx7kvgW0

2022-04-11 08:00:19
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なれなれしい手つきでくい、と引かれる。左手で、軽くふりはらうようにするが、強引に引っ張られる。 「ちょっと!」 「ねえ、……鏡、見た?」 「え?」 「かがみ!」 「何って……、」  誰だっただろうか。  どうしても、思い出せない。気にかかることが、多すぎる。 「ちょっと、待って」  プリ

2022-04-11 08:00:20
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月12日】 ントを、くしゃりと雑に四つ折りにして、スカートのポケットに突っ込む。ペンケースは握りこんだまま、ぐいぐい肘を引かれて、トイレの中へ。  洗面所の前、たしかに、ここに鏡が。  なんでもない、ふつうの。ふたりの顔が、ただ写っているだ pic.twitter.com/aHiLCiXRNO

2022-04-12 08:00:15
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け── 「よーく、見てよ。なにか、おかしくない?」 「なにが、」  言われて、ちょっと顔を近づけてみる。  自分の顔だ。  先生に怒られないぎりぎりの色に染めた茶髪、目の色はちょっと青みがかって。鼻はちょっと高めで、頬がこけている。  もっと、かわいらしい顔であったらいいのに。例えば、

2022-04-12 08:00:17
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月13日】 ひなたのような。  ──ふと、鏡の中の眉が動いた気がした。 「……ねえ、」  少女が、ひくい声でつぶやくのが聞こえる。 「鏡の中から、毎日毎日、こっちの世界の自分とおなじ動きをして、おなじ顔をして。……そういうのって、どういう気 pic.twitter.com/AWXFGRDpot

2022-04-13 08:00:35
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分、なのかな?」 「なにを……、」  つぶやきかけて、気づく。  鏡のなかの自分は、口が動いていない。  ア、と声が出る。たしかに、口を開いているのに、鏡のなかの自分は、ぴったり唇を閉じている。喉も、動いていない。  ただ、ぎゅっと眉を寄せて、こちらをじっと睨みつけている。 「あんた

2022-04-13 08:00:36
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月14日】 ……、」  抗議しようとする。かたわらにいる少女に言っているのか、鏡の中の自分に言っているのか、わからなくなる。 「ちょっと、頼まれちゃってさぁ。やっぱり……、もとに、戻すべきかなって。……知らんけど。まぁ……」 「なにが!」 「 pic.twitter.com/cTpGgTGGLi

2022-04-14 08:00:18
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だから、さ。鏡の中に……」  少女が言いよどむ。なにを言おうとしているのか、考えているあいだに、鏡のなかの自分が、──  手を、のばしてくる。  鏡面に、……右手を。  次の瞬間、体が勝手に動いていた。頭がかぁっとなって、一瞬、視界が真っ暗になる。ただ、左手にぎゅっと握りしめたペン

2022-04-14 08:00:19
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月15日】 ケースを、思い切りふりあげて、叩きつける。ぎん、といやあな音。ペンケースをとおして、人間の手のやわらかい感触が一瞬だけ、伝わってくる。音は、たしかにガラスの音なのに。  ひび。ペンケースのなかに、はさみが入っていた。それを思い pic.twitter.com/7me5kd0xoH

2022-04-15 08:00:22
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出す前に、もう一度、手が勝手に動いている。叩きつける。二度、三度。  ばらばらに、割れる。がらすのくずが、洗面台に落ちる。ひどい音がした。外に、聞こえていないだろうか。そんな心配をするが、あたりはしいんと静まりかえっている。  予鈴が鳴る──、 「ねえ、」  振り返る。いやな匂いの

2022-04-15 08:00:23
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月16日】 する汗で、顔がべとべとする。脇汗も。  ペンケースを握りしめた左拳が、開けない。 「……うっかり、割っちゃったみたい」  ぎりりと、歯を噛み締めながら、いう。いいながら、長く細い息をつく。肺の奥から。 「センセイに、言っといてくれ pic.twitter.com/2RC6LPdhtR

2022-04-16 08:00:22
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ない? ごめんねえ」 「いいよぉ。片付けとく」  少女は、にこにこと笑って、うなずいた。 「けが、ない? なんか、ごめんね」 「だいじょうぶ」 「あたしが、割ったことにしとくからさあ。……授業、いきなよ。ね」 「ありがと」  まだ、指が開かない。  ぎりりと、もう一度、歯をかみしめて──

2022-04-16 08:00:24
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月17日】 、  舞は、トイレを出ていった。 *  それから、少女が、床から一番大きな破片をひろって、 「ごめんね。……いやあ、無理だったわ」  そう、つぶやくと、  鏡の破片から、ぽたりと、涙のしずくが落ちた。 (鏡写し 了) pic.twitter.com/49m0FfUhxJ

2022-04-17 08:00:17
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穴(6月15日 真鍋孝則) 「ねえ、」  赤い髪留めをつけた少女が、穴の中を覗き込んでくる。  ちょっと釣り目ぎみの細い目、くせっ毛、きれいな爪をした手を穴のふちにかけて、心配そうに、見下ろして。 「……何してんの?」  と、ちょっと跳ねたような、それでもしずかな声で。 「べつ、に。

2022-04-17 08:00:18
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#140字小説 「あら、」獣医の待合室。キャリーの網目から飛び出したしっぽを見て、向かいの女がちいさく声をあげた。「うちのコもなんです」「え、」あいてのキャリーを覗き込むと、『見るなよ』と、そっけなく睨まれた。猫又。技術の発展でペットの寿命がぐんと伸びたせいで、最近は珍しくもない。 pic.twitter.com/1WeGnNBHKa

2022-04-17 12:10:03
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まとめ読みはこちらをどうぞ。よしなに。 楠羽毛の140字小説(mintまとめ) min.togetter.com/uw5rfhw

2022-04-17 12:10:04
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年4月18日】 」  ただ、そう答える。説明するのも面倒だった。 「なあにが、べつに。」  少女は、目をまん丸くして、ぎゅっとこちらを睨む。誰だっただろうか。たしかに、見覚えがあるのだが。  頭がボンヤリしている。 「いいけど。……あぶないよ。」 pic.twitter.com/cVXaEiUtf2

2022-04-18 08:00:15
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「……いいだろ、べつに。」  ぶっきらぼうに、言い返す。  孝則は、穴の中に、膝をかかえて座っている。  北校舎の裏の奥、ちょっとした林のようになった小山。穴のそばには大きな楠。根本に小さな看板、かすかに黒い文字が残るが、ほとんど読めない。  その脇に、積み上げられた土の山。  孝則

2022-04-18 08:00:16
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月15日】 が、自分で掘った穴だ。誰かが置きっぱなしにしたものか、柄がぼろぼろになった農業用のスコップで、40分かけて。  どうしてかは、自分でもよくわからない。 「雨、降るよ?」  空は曇っている。いまにも、大粒の雨が落ちてきそうだ。 「い pic.twitter.com/4IO76Jalr1

2022-05-15 08:00:14
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いよ……べつに!」  叫び返しながら、孝則は、少女の名前を思い出そうとする。たしか、同じクラスなのだが、どうしても名前がわからない。  とにかく、少女は制服のスカートの裾を右手でおさえ、左手で穴のはしに手をかけて、ぎゅっと眉をひそめている。  土のかけらが、ぼろぼろと落ちて来る。孝

2022-05-15 08:00:15
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月16日】 則はかるく首を振って、額の砂くずを払いおとした。穴は体育座りをしてもぎりぎりの大きさしかない。壁がくずれたら、すぐ埋まってしまいそうだ。 「登れないんなら、手、貸すよお」  かがんで、右手をさしのべてくる。もっとも、そんなに深い pic.twitter.com/QGerknDCSP

2022-05-16 08:00:16
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穴ではない。孝則が立ち上がって手をかければ、なんなく登れるだろう。 「いいって言ってるだろ」  少女はちょっと首をかしげて、……それから、立ちあがった。 「……じゃ、あたし帰るけど」 「うん、」  そうして、孝則は、……また、一人になった。 *  ぼうっと、なにも考えずに穴のなかに居

2022-05-16 08:00:17
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月17日】 る。  ひんやりと壁が冷たい。  通学鞄とサブバッグはくすのきの根本に。だから、いまは手ぶらだ。制服のカッターシャツが、じんわりと濡れて。  このままここにいれば、明日も学校に来ずに済むだろうか。家にも。  ずっと──、  たい pic.twitter.com/4rjWlQU9j5

2022-05-17 08:00:25
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した理由があったわけではない。  ただ、  ちょっとした一言と、それから、……たまたま、そこにスコップがあって。  土が、とても、柔らかかったから。 *  雨が降って来た。  ボツボツと、背中にあたる。靴底と、制服の尻が、じんわりと濡れる。  孝則の頭はまだぼんやりとして、何も考えら

2022-05-17 08:00:27
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月18日】 れなかった。  ──眠いような、だるいような。  落ちつく。……蝉になったようだ。  かすかな……、足音。  身じろぎする。まったく、……放っておいてくれないものか。 「……ね、雨、降ってきたよ!」  声。見上げることはせず、下 pic.twitter.com/iWw4ZDZtES

2022-05-18 12:22:00
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をむいたまま。  誰だかは、判っている。……名前は、思い出せないが。 「めっちゃ降るらしいよ、今日。風もすごいし」  傘が、さしかけられる。赤地に、黒のチェックが入った、ちいさな傘。 「……べつに、」 「水、たまるよ。とりあえず、穴から出たら?」 「……べつ、に。」  ため息が降ってく

2022-05-18 12:22:01
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月19日】 る。 「その、……ため息。」 「なに?」 「いや、……べつに。」 「ふーん」  言いたくなかった。  ため息が、……自分の母親に似ていて嫌だった、だなんて。 「……傘、いる?」 「いらない。」 「雨、ひどくなってきたよ」 「うん。」 pic.twitter.com/ZwubDY4io5

2022-05-19 08:02:07
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「……そういうの、あぶないよ」 「え?」 「あぶない。……ね」  ふと、孝則は顔をあげて、少女と目をあわせた。  それから、少し吐き気をおぼえて、また目を伏せる。 「……水が、さ」 「え」 「溜まってる。ほら。」  足元。  穴のなか。強くなってきた雨が、少しずつ入り込んできている。

2022-05-19 08:02:09
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月20日】  指先の、第一関節くらい。 「……このままじゃ、ほんとうに。……あぶないよ」 「え、」  すこし、声のトーンが変わった。  ぴちゃり、と水が跳ねる音がする。体はもう、ずぶぬれだ。風邪をひくかもしれない。いまさら、とは思う。  水位 pic.twitter.com/THsTtahZbw

2022-05-20 08:00:20
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があがっている。  壁面を見る。水は落ちているが、滝のような、というほどではない。雨は強いが、急に激しくなったわけではない。  いつのまにか、座っている孝則の腰まで、どっぷりと水に浸かっていた。  いくらなんでも、早すぎる。  もういちど、顔をあげる。暗い。雲と、広げてさしかけた傘

2022-05-20 08:00:21
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月21日】 で、少女の表情は、よく見えない。 「ねえ、……あがってきなよ。手伝ってあげるから。」  雨音にさえぎられて、くぐもった声。 *  きもちわるいよ、というのが、──母親の口ぐせだった。  いつも小さくわらって、ぎゅっと目を細めて、 pic.twitter.com/XX4pQWrP9D

2022-05-21 08:00:16
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楠羽毛 @kusunoki_umou

吐き捨てるように低い声で。  何度も、何度も聞いた言葉で、べつに、どうということもない。  ただ──、 * 「……ねえってば!」  また、ボンヤリしていたらしい。水位はどんどん高くなって、もう、胸のあたり。  それから、うまく回らない頭で、いろんなことを思い出して、 「……別に、い

2022-05-21 08:00:17
楠羽毛 @kusunoki_umou

#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月22日】 いよ」  と、こたえる。  ほんとうに、そういう気分だった。 *  あっというまに水は穴のふち近くに達して、それから、  風呂桶の栓を抜いたように……いや、洋式トイレの水を流すように。がぼがぼがぼ、と大きなうずを巻いて、消えてい

2022-05-22 08:00:02
楠羽毛 @kusunoki_umou

った。  あとには、穴だけが残った。穴の底は、手をのばせば届きそうなほど近くて……、もちろん、水が流れていくような横穴など、ない。そう、見える。  少女は、ぱちくりと目をしばたかせて、 「……あーも、しょうがないなー……」  つぶやいて、スコップを握った。 (いつだって、後始末はあ

2022-05-22 08:00:04
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月23日】 たしの仕事なんだから)  とっとと、埋めてしまおう。そう、思う。ため息ひとつ。 (穴 了) アイスクリーム(7月12日 松浦真優)  どろりと、汗が落ちた。  真優は、鼻につんと鋭い匂いをおぼえて、眉をしかめる。  アイスクリー pic.twitter.com/F2tIefNird

2022-05-23 08:00:12
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楠羽毛 @kusunoki_umou

ムの匂い。バニラの、砂糖たっぷりの。  きのう、食べすぎたみたいだ。汗でじっとりしたユニフォームのそこかしこから、甘い香りがする。  短距離走。  夏にやるものじゃない。暑くて、熱くて。でも、嫌いじゃない。  とん、と地面を蹴る。  蹴る。  蹴る。  心臓が跳ねる。  太陽の熱と、風が

2022-05-23 08:00:13
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月24日】 、じかに鼻にあたる。また汗が落ちる。  足が、ゴールの線をふむ。 「次!」  顧問の声に押されるように、ゆっくりと歩く。  むわっと、汗のにおい。いや、違う。  やっぱり、アイスクリームの香りだ。 *  急に、立ちくらみがした。 pic.twitter.com/3CphARKLr0

2022-05-24 08:00:22
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倒れる寸前、足元が目に入る。大粒の汗が、ぼたりと落ちる。甘いにおいの、……若干、白く濁った汗。 * 「……だいじょうぶ?」  ぱちんと目をあけると、くもった表情で、ベッド脇にすわっている同級生。  いや、ほんとうに同級生だっただろうか。ちょっと釣り眼ぎみの目をまあるく見開いて、赤い

2022-05-24 08:00:24
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月25日】 髪留めをしたボリュームのある髪を、左手でかきあげながら。やせた、きれいな爪のある手を、ベッドの脇にかけて。 「う、ん」  ボンヤリとした頭で、名前を思い出そうとする。この子、誰だっただろうか。  保健室。ベッドのまわりは白いカー pic.twitter.com/FKvXMwRgIw

2022-05-25 08:00:22
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テンで囲われている。カーテンのむこうは静かで、人の気配は感じられない。  保健室の先生は、留守なんだろうか。そう、思う。 「呼んでこようか、保健のセンセ。」  見透かしたように、少女がいう。うん、と頷いて、軽く身をおこす。熱中症、それとも貧血。熱があるような気はしない。むしろ、  ─

2022-05-25 08:00:24
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#朝の連続ツイート小説 #へんな子たち【2022年5月26日】  ──冷たい。からだも、布団も。 「……溶けかけてたんだよ、マユー」 「とけかけて?」  思わず聞き返してから、頷く。汗がどろどろで、倒れていたのだ。まさしく、溶けかけていたにちがいない。  まるで、アイスクリームみたいに。  汗 pic.twitter.com/WcL841fb6r

2022-05-26 08:00:17
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楠羽毛 @kusunoki_umou

。そういえば、と気づく。足の臭い。洗っても洗っても落ちなかったひどい臭いが、今日は全然しない。カーテンのなかにこもっていたらイヤだな、と一瞬考えるが、杞憂だった。  そのかわり、甘い匂いがこもっている。バニラの。 「ねえ、昨日どれだけ食べたの?」 「……え」 「アイスクリーム! さっ

2022-05-26 08:00:19
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