#ふぁぼの数だけこれから出す本からお気に入りの一文を晒す 【3/21(木) 第8回 Text-Revolutions】 「斑」 ブース→ A-05/花うさぎ イベント詳細→ text-revolutions.com/event/ plag.me/p/textrevo08/6… #テキレボ よかったら遊んでやってくださいまし☆
2019-03-10 15:57:23①勝は小学校にあがる前に漢字の読み書きができた。泳ぐのも得意だ。顔立ちもととのっている。父に似れば、背もそこそこ伸びるだろう。今でも女の子に人気がある。けれどもべたべたされるのは嫌いだ。それをそのまま嫌いだ近寄るなとやるから女児は泣き、先生や親に叱られる。
2019-03-12 19:21:13②「おかあさん、それで入学式に出たらいいよ」 「お式に着るにはちょっと格が低いわね」 こればかりはきっぱりと母親がこたえた。その頃にはまだ入学式や卒業式といえば小紋に黒羽織で装う略礼装の習慣が残っていた。勝は口をとがらせた。色白の母には明るい綺麗な色がよく映える。
2019-03-12 19:21:51③ 夕方やってきた夢使いは祖母よりずっと年をとった男だった。黒紋付羽織袴は流石にぱりっとしていたが腰はすっかり曲がって杖をついていた。禿頭で眉が長く好々爺然として、祖母や母にお愛想を振りまいていたが、勝をひと目見るなり顔色を変えた。 勝もまた察した――あちらとこちらの橋渡しをし、
2019-03-12 19:23:44④清新な菊の花のかおりがした。 畳はすり減っていない。縁も色褪せずきれいだ。胸下に菊花のにおいが濃く凝っている。まるで部屋一面に菊の花が敷き詰められているようだった。勝はぐるりと部屋を見回した。しかし、どこにも花など活けられていない。花瓶すら、見当たらない。
2019-03-12 19:25:50⑤勝はほとんど本能で悟った。あそこに「ぼく」を閉じこめたもののひとりが彼女であったのだと。けんぺいさんがきて。祖母が泣いてあやまった。だが、それだけでなかった。あのこがおかしくなったせいで、およめにいきはぐった。さんびゃくねんつづくおおだなにとつぐはずだったのに……
2019-03-12 19:30:07⑥ 獲り込まれた。 勝は、自分の立つ場所が座敷牢のうちがわだとわかった。ここに、繋がれたものがいた―――いや、いる。 背筋を這いのぼる寒気に身震いする。さっきまで暑くてかいた汗が冷えて、脂汗に変わる。逃げなくては。そうおもうのに足が動かない。目の前の木の格子は途轍もなく頑丈に
2019-03-12 19:34:17見えた。背中、ちょうど背守りが縫いつけられ、紋の染められるあたりが洞(うろ)になって、黒く粘り気のあるどろどろとしたものが注ぎ込まれる。
2019-03-12 19:34:32⑦ 「嘘じゃなければ何を言ってもいいの、なんであなたはそれがわからないの、なんで、どうして……いったいいつになったら、なんど言ったら、それを、わかって、くれるの……」 母親の膝が、つづいてその両手が床についた。肩が、その肘が、小刻みに揺れている。
2019-03-12 19:41:19⑧十一月の早朝の浜辺は薄暗く、ひとの気配がない。勝は半纏に入れていた手を伸ばして海岸沿いの道路脇に咲いている白い菊の花を摘んだ。若狭浜菊という。花が好きな母に教わった。マーガレットに似ているが、いくらか繊細で葉のかたちも違う。花だけを見ているとわからないことを母は丁寧にはなす。
2019-03-12 19:54:57⑨秋になり、勝の七つの夢見式は祖母が夢使いを呼んだ。その夜の背守りは慣習通り母が縫ったが、羽織袴の仕立ては祖母がした。写真館の店主は髪を撫でつけた勝に、お振袖でも似合う美男子だと妙な世辞を寄越してきた。父親は、うちは呉服屋だから上の子が女の子でもよかったんですよねえとにやけて返す
2019-03-12 21:59:45