地人書房、1988-89年 歴史地理学の研究史ではよく目にする本
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永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

葛川絵図研究会編『絵図のコスモロジー(上・下)』地人書房、1988-89年 記号論的方法による絵図読解によって、その後の古地図研究に大きな影響を与えた論文集。構図や個々の図像についての分析から、空間認識という人間の内面に迫る資料としての絵図の可能性を示す。非常に密度の濃い本だった。 pic.twitter.com/mcSspkEeM1

2021-08-05 23:32:34
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「絵図分析の枠組」および共同研究の契機となった葛川絵図についての論考のほか、22の事例研究が、絵図の史料批判、-分析、-解釈という三部にまとめられている。時代も地域も幅広いが、世界認識を見ようとする点は共通している。 pic.twitter.com/9fiz66NZEQ

2021-08-05 23:42:18
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「絵図分析の枠組」の章はそれほど長くはなく、絵図分析の基本的作業手順を整理したもの。手順はあとの3つの部と対応している。スケッチ図、プラン図、マンダラ図という3類型による「絵図の三角座標」が示されているが、そのように類型化する意義はいま一つ掴めなかった。

2021-08-05 23:50:05
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

続く「葛川絵図—絵図研究法の例解のために—」が名前の通り本書でも最も重要な章で、近江国の霊場葛川を描いた絵図のコスモロジーが、三つの手順(史料批判・分析・解釈)に沿ってひも解かれる。話としては「解釈」の項が一番刺激的だったが、その説得力はやはり前段の史料批判・分析があってこそ。

2021-08-05 23:58:32
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

「史料批判」の項は堺相論の経緯を追いながら絵図の作成時期・作者・意図を考察したもの。がっつり中世史でちょっと難しかった。「分析」の項で用いられる方法はすぐにでも取り入れられそう。特に表2「彩色絵図の図像分類」が参考になる。植生の話は自然地理方面からもう少し掘り下げてほしかった。

2021-08-06 00:09:12
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

現在の葛川周辺。北端にある寺院が葛川の中心である明王院。「葛川木戸口町」の付近が堺相論の結果葛川と伊香立庄の境界として定められた場所にあたる。 maps.gsi.go.jp/vector/#14.151… pic.twitter.com/luAX3aVIzM

2021-08-06 00:16:41
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永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

以下、各章の雑多な感想。全て触れるのは大変なので興味を持ったものを中心に。順番は適当。

2021-08-06 00:22:18
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

三好唯義「近世刊行国絵図の書誌的検討」 神戸市立博物館の南波コレクションの分析。(官撰ではない)刊行国絵図は予想以上に数が少ない。しかも出現も宝永以降と晩い。町絵図と日本図の間という微妙なスケールが庶民の需要と合わなかったのかな。

2021-08-06 00:23:29
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

吉田敏弘「骨寺村絵図の地域像」 対象においても方法においても一番葛川絵図の章と近い章。堺相論のために作成された葛川絵図とは異なり、骨寺村絵図は荘園全体を描く「四至牓示絵図」であり、議論としてはこちらのほうがシンプルで分かりやすかった。

2021-08-06 00:32:23
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

岩鼻通明「立山マンダラにみる聖と俗のコスモロジー」 宗教的世界観が強く出た絵図の分析。地獄/浄土、俗/聖、天上他界/地下他界、聖域圏/準聖域圏という軸で立山マンダラの画面構成を解釈する。岩峅寺と芦峅寺の関係が気になる。

2021-08-06 00:43:02
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

各章の感想はとりあえずここまでで。中世絵図を起点に組み立てられた方法論ということで、それ以外の時代を対象とした章になるとちょっと論じ方が変わってくるなという印象です。久武さんの章はほとんどトゥアンみたいな感じ。

2021-08-06 00:54:54
永太郎(ながたろう)/重永瞬 @Naga_Kyoto

あと個人的には矢守さんの章に「露店の時間地理学」というアイデアが出ていたのがおおっと思いました(今やろうとしてることなので)。

2021-08-06 00:55:15