11月の30日間、毎日お題に沿って小説を書く企画「Novelber」にツイノベで参加しました。 お題の単語を小説内に入れずにどこまで伝えられるか挑戦してみたので、お楽しみいただければ幸いです。 ツイノベを読んで、お題が何だったのか推測してみるのも面白いかもしれません。
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綺想編纂館(朧) @Fictionarys

【予告:明日から】11月1日~30日で「Novelber」という小説企画を開催します。お題一覧は画像をご参照ください。基本的に11/1に1のお題(窓辺)、11/2に2のお題(手紙)とひとつずつ進んでいく形です。タグは #novelber をご使用ください。ゆるい企画ですので、どうぞお気軽に。 #twnovel #小説 #お題 pic.twitter.com/fd69n8TkBE

2019-10-31 12:18:01
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綺想編纂館(朧) @Fictionarys

金木犀の香りをまとった月影が深い夜へ誘うから、そっと窓枠に手をかけた。手には小さなカンテラを携えて、私の代わりに秋風の名残を部屋の中に閉じ込めて。星が群れ咲く夜空の下、月が浮かぶ湖面の向こう岸には夜より暗く深い森。波紋に揺れる鏡の底で、白い狐が小さく跳ねた。 #novelber #twnovel

2019-11-01 23:01:25
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

古びた封筒から一枚の紙を取り出した。誰に宛てたかわからない内容を自分宛てだと勝手に決めて、秘密の旅に出るために。月明かりの下、夜色のインクで記された文字を追いながら、何度も読み返した景色をなぞる。行間に期待と不安を挟みながら、一行ごとに近づく見知らぬ世界へ。 #novelber #twnovel

2019-11-02 21:21:44
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

ふいに差し出されたものを手に取ると、香ばしいにおいがふわりと立ち上った。見知らぬ街の見知らぬ景色、だけど知っている懐かしい秋の香り。胸の奥がキュッと詰まるのを誤魔化すように、一口かじれば蜜色の甘い味が広がる。思わずこぼれた微笑みに、隣から小さく優しい笑い声。 #novelber #twnovel

2019-11-03 16:45:06
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

楽しい、悲しい、嬉しい、寂しい・・・いくつもの感情があるけれど、その感情は難しいと人形師は呟いた。手元の操り人形は、たくさんの感情を表現することができるのに。戻りたい場所、会いたい人、乞うものがあればわかるのかな、と仮面の笑顔で彼は言う。旅の途中、夕焼けの空。 #novelber #twnovel

2019-11-04 15:17:38
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

宝石の名前の谷があるという。そこは11月にしか見つからない幻の場所。遠路遙々それを探して見にきたという旅人の話に惹かれて、共に山を登っていく。案内人が指差す先、煌めく木々で黄金色に染まる谷。途中から火を加えたようにだんだんと紅に色を変えるその景色は、まるで。 #novelber #twnovel

2019-11-05 11:58:19
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

手元には有効期限が1日だけのチケットが1枚。映画館のような建物が遊園地のようにひしめき合うここは、敷地が広い上に配置が毎日変わる。前回の続きが見られないと嘆いている人を横目に、入口にたどり着く。今日こそは。受付にチケットを手渡すと「どうぞよい夢を」と見送りの声。 #novelber #twnovel

2019-11-06 12:07:33
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

水面を揺らすように、穏やかな声が文字をなぞって音を紡ぐ。言葉を頼りに進む先は、ここではないどこか。振り返ることを忘れた物語を追いかけて、耳を澄まして迷い込む。どこまでも見晴るかすことができそうで、どこまでも曖昧な霧に隠された世界の中で、ひとつの終わりを探す旅。 #novelber #twnovel

2019-11-07 12:01:04
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

冬に近づくにつれて輝きを増す夜空の中で、ひときわ明るい青い星。星に詳しくなくても見つけられるその星を探しては、今日も夜空にあることにホッとする。北極星のように目印になる星ではないけれど、互いに追うように、寄り添うように旅をする。夜空に見えなくなる季節まで。 #novelber #twnovel

2019-11-08 12:10:34
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

雲行きの怪しさを合図に慌ただしく去る人々を見送ると、広場の真ん中にひとり残された。頬に落ちた最初の一雫を指で拭って、空を見上げる。途切れがちな言葉のように降り始めた雨は、すぐに堰を切ったような大雨になった。一言だけ口から零れ落ちた台詞は、ただのひとりごと。 #novelber #twnovel

2019-11-09 12:41:59
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

街は時間ごとに色を変える。穏やかに揺蕩う夜の青、華やかに跳ね遊ぶ昼の黄色、静やかに溶ける夕焼けの赤。街の外からやってきた私も一緒に染め上げて、景色の一部に変えていく。今日も一日お疲れ様。手もとの黄色い光を消して、青の夜に滑り込む。おやすみ。そして、また明日。 #novelber #twnovel

2019-11-10 12:17:39
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

ひと雨ごとに冬へと近づく時季は、心にも時折、雨雲がかかる。冷たい雨に染まった感情は、晴れては降ってを繰り返して。曖昧な記憶の中で、忘れたはずの涙に色を失くしていく世界。すべてを洗い流せるほどではなくても、確かに頬を伝う雫は雨の色。明日にはきっと晴れますように。 #novelber #twnovel

2019-11-11 19:37:52
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

君が幸せな物語を望むから、僕の中で濾過したインクで世界を書き換えた。時に冷たい物語が君を傷つけないように、優しい世界が続くように。僕の中に残る理不尽な世界は、時に痛みを伴うけれど。それでも僕は君と並んで歩く。辿り着きたいのは、たったひとつのハッピーエンド。 #novelber #twnovel

2019-11-12 12:03:54
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

初めて訪れた街の中、不思議な記憶を辿って懐かしい街並みに迷い込む。自然と足が向いたのはレンガ造りの朽ちた建物。何故か知っている抜け道からこっそり忍び込めば、いくつもの部屋とベッド、そして染み付いた消毒の匂い。蘇る記憶の中で、儚い少女が「久しぶりね」と笑った。 #novelber #twnovel

2019-11-13 12:11:47
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

出会ったきっかけは、胸元にさしていたペンを貸したことだった。そんなことを思い出しながら、胸元を飾るハンカチを差し出した僕に「なんでも出てくるの?」と言って彼女は涙目で笑った。だけど差し出せないものもある。内側に隠した君への想いだけは取り出し方がわからないから。 #novelber #twnovel

2019-11-14 12:10:02
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

境内を歩きながら、あの子のことを思い出す。3つの時にはすでに傍にいて、5つの時にはよく話をした。そして7つの時に着飾った私を見て喜んでくれて以来、あの子との記憶がない。神様だったのかも、と思いながら手を合わせる。でも、忘れてないよ。君が最初の友だちってこと。 #novelber #twnovel

2019-11-15 12:17:29
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

髪を伸ばしたのは貴方が長い髪が好きだと言ったから。貴方に追い付きたくて、でも背伸びをしても届かなくて。少しずつ募っていく想いを込めて今日も髪を編む。三つ編みほど単純ではないけれど、簡単には解けないほど複雑でもない理由はひとつ。いつか貴方に解いてほしいから。 #novelber #twnovel

2019-11-16 13:36:36
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

星は瞬き、長い時間を越えてその光は届く。星の光をモールス信号のように訳せることはまだあまり知られていない。強く弱く、不規則に、空気を震わせて伝わる声のような光。訳した言葉は誰に伝えていいのかわからないけれど。今宵も星の言葉を聞きながら、伝えたい人を思い出す。 #novelber #twnovel

2019-11-17 13:46:03
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

1枚を1本に戻していく作業は、拍子抜けするほどあっけない。何度も解いては編みなおして、ようやくできたのに。全部を解き終わったら、少しだけ涙が滲んだ。指先に絡まる毛羽立った長い糸には、ゆるい編み跡。一度編んでしまったら、そう簡単には元の姿には戻らない。戻れない。 #novelber #twnovel

2019-11-18 13:11:19
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

太陽が沈んだばかりの海辺には人がいなかった。水平線から夜空に向かって描かれる光のグラデーションを言葉もなく眺めているのは僕と君だけ。魔法の時間はとても短くて、綺麗で。あの頃の仲間たちを思い出して切なさに染まる僕の隣で「夜にならなければいいのに」と呟きが零れた。 #novelber #twnovel

2019-11-19 17:37:20
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

国を2つに分かつ大河を越えるには、ここを通るしかない。そう判断して新月の夜に抜け出した。欄干から身を乗り出して下を覗いても、ランプのわずかな明かりでは流れも深さもよくわからない。ふと誰かが近づく気配に顔を上げる。思った通りの相手に微笑むといつも通りの困り顔。 #novelber #twnovel

2019-11-20 12:05:56
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

9月に収穫した葡萄をわずか2カ月で仕上げる新酒を街の多くの人が待ち望む。今日はついに解禁日。「そんなに美味しい酒なんですか?」と聞いた旅人に、街の者は「最高の出来だ!」と言って笑う。大切に育てた葡萄からできたこだわりの新酒。本当の味は、作った者だけが知っている。 #novelber #twnovel

2019-11-21 12:05:10
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

冬の訪れを告げる寒気団を率いる彼の人の姿を見るや、山々の紅葉が一層色めき立った。整えられた隊列が歩いた後は空気が凛としたものに変わり、冬色に染まる。ちらちらと雪が舞い、静かな眠りの季節は始まったばかり。春の女神が暖かな微笑みで彼を送り出す日は、まだ先の話。 #novelber #twnovel

2019-11-22 12:04:28
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

外の寒さに涙目になりながら、ようやくいつもの喫茶店にたどり着いた。丁寧に差し出されたカップに口をつけると、喉元を抜けて体の中心まであたたかさが流れ落ちていく。冷えた体を溶かすための、夜の短いティータイム。どんなに世界が冷たくなっても、心まで凍りつかないように。 #novelber #twnovel

2019-11-23 16:57:40
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

マッチを擦って火を灯すと、部屋の中がぼんやりと明るくなった。ゆらゆらと揺れる小さな灯火を手に、軋む階段を降りていく。薄暗い地下室は魔女だった祖母の大切な場所。遺された本の暗号通りならきっと入れるはずなのだ。指定の場所に溶けた蝋で記号を書いて、いざ中へ。 #novelber #twnovel

2019-11-24 20:06:50
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

ここ数日で一番冷え込んだ朝、中庭が白い結晶をまぶしたようにキラキラと輝いていた。「そんな時期か・・・」と呟く声も白く染まり、庭の結晶に紛れ込む。目の前の葉に触れると指に冷たさが滲んだ。ただそれだけのことなのに。思わず貴方に伝えたくなるのは、どうしてなんだろう。 #novelber #twnovel

2019-11-25 12:02:55
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

字の美しさだけが取り柄な私に仕事が舞い込んだ。仕える姫君からの恋文の代筆依頼。さっそく名門貴族の男性の名を書き始めて手が止まる。あぁ、この人なら好きな色も好きな季節も知っている。パタリと水滴が落ちて手元の文字が溶けた気がしたが、視界がぼやけてわからなかった。 #novelber #twnovel

2019-11-26 12:51:17
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

店主がどんぐりのようなものを僕の手にのせた。「これが?」と言いながら観察してみてもよくわからない。店主は笑って店の外に出ると、それを空高く放り投げた。次の瞬間、柔らかい日差しの中でキラキラと雪が舞う。白銀の世界を知らない彼女に送ったら、喜んでくれるだろうか。 #novelber #twnovel

2019-11-27 12:10:15
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

寒さが厳しい国には煉瓦と薪の火がよく似合う。長い冬の間中、薪を燃やし続けて暖めた部屋も、その炎で作った料理もすっかり私の一部になった。春には旅立つ私の最後の冬もあと少し。連れて行けない大切な相棒の煤掃除の予定を立てながら、今宵もパチパチという囁きを聞いている。 #novelber #twnovel

2019-11-28 12:01:28
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

姿が見えないものに追われている。ゆっくりと、でも確実に近づいてくる音がする。振り切ることはできないし、本当はもう捕まっていることにも薄々は気づいている。毎年繰り返される、寒い季節との鬼ごっこ。追われて、捕まって、置いていかれる僕の目の前に、楽しげに雪が舞う。 #novelber #twnovel

2019-11-29 12:53:25
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

月夜の世界に飛び込んだはずなのに、目を開けたらそこはいつもの部屋の中。手元には秋風と共に文字が抜け出した一冊の本と、薄く煙が残るカンテラだけ。窓辺に訪れた朝日に導かれるようにカーテンを開けると、視界が雪の光に染まる。眩しく輝く世界の中で、白い狐が小さく鳴いた。 #novelber #twnovel

2019-11-30 12:48:16
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まとめたひと
綺想編纂館(朧) @Fictionarys

綺想編纂館では、日常にふと映り込む綺想を遊び心と織り交ぜて編纂しています。紳士・淑女の皆様の心の琴線に少しでも触れたら幸いです。過去の物語への感想も大歓迎。お気軽にお声掛けください。 【近況:3/10「そこの路地入ったとこ文庫」参加予定です!】 編纂者:朧(おぼろ)