靴底の話が思いがけない展開を…。 めちゃくちゃおもしろいです。そしてまだ続いている…! 続き楽しみにしています!! 画像チョイスが好き。
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bao @baobabustroll

私にはもう10年来の付き合いになる友人がいます。一言でいえば「いいやつ」です。頭の回転が速くて生真面目で努力家でちょっと心配性で、他人に対する思い遣りが板についていて、仕事にプライドがあり、趣味も家族も大事にする、そういう人間です。

2020-02-13 13:41:22
bao @baobabustroll

心通わせたきっかけを今でも鮮明に覚えています。一緒に作業しているときに集中した友人がふと口ずさんだ某ミュージカルの一節に私が無意識に合いの手を入れ、そのまま2人でデュエットを朗々と歌い出して途中から手を取り踊り出し、最後にハイタッチしたあたりでもう2人はマブダチお前は私の魂の双子。

2020-02-13 13:41:31
bao @baobabustroll

職場は違いましたが同じ道を志すものとして事あるごとに集まって学び、遊び、励まし合い、慰め合いました。今でも大事な友達です。 そんな友人と出かけた際、なんの拍子か靴底の話題になりました。 たしか、軍手かなにかが落ちているのを見つけて私が「軍手もだけど靴底ってよく落ちてるよね」

2020-02-13 13:41:32
bao @baobabustroll

と、軽い気持ちでくちにしたのだ思います。月に4.5回は靴底見かけるよね〜みたいな感じで。 事実、私は頻繁に靴底や折れたヒールを見掛けるのです。 それに対して友人は「私はいままで一度も靴底落ちているのを見たことがない、そんなのよく見るのはbaoだけだよ」と笑って返しました。

2020-02-13 13:41:32
bao @baobabustroll

私は言い返しました「きっと目に入ったけれど認識していないだけだ。疾患概念が確立すると報告数が増えるように、いま君は靴底が落ちているものだと知った。予言しよう、君はきっとこれから頻繁に落ちている靴底を見るだろう」と。

2020-02-13 13:41:33
bao @baobabustroll

そのお出かけの帰り道、我々は道端に落ちている靴底を見つけました。ドヤり散らす私に友人は「いやそんな…まさか…」と若干怯えたような視線を向け、私は「もっともっと、これから沢山の剥がれ落ちた靴底を見るだろう」と笑いました。

2020-02-13 13:41:34
bao @baobabustroll

それから日をおかずして(たしか翌日とかそんなスパン)私のガラケーに友人から「落ちてた」と靴底の写メが送られてきました。以来、友人は靴底を見掛けるたびに私に報告し「怖」「呪いか」「靴底を見るものは靴底にもまた見られている」と2人で笑い合いました。つづく

2020-02-13 13:41:34
bao @baobabustroll

時は流れ、無事医師4年目を迎えた我々はどうやら久々に予定を組めるくらいの夏休みが取れそうだと色めき立っていました。2泊3日でどこかに旅行にゆこう、ゆったり歩いて自然を堪能しよう。「雲海が見たい」友人の提案で目的は定まりました、高い山に登ろう、出来るだけ楽に。

2020-02-13 17:47:00
bao @baobabustroll

「山頂駅からの山あるき」という本を繰り、オンシーズンでも空いていて標高が高い関東近郊の山頂駅を探し、北八ヶ岳ロープウェイに白羽の矢が立ちました。山頂駅2237mから坪庭を経て雨池山2325mに登って降りてくる標高差81mの軟弱コースです。オッケー大丈夫問題ない我々の目的は登山ではなく雲海だ。

2020-02-13 17:57:13
bao @baobabustroll

天気次第では宿泊予定の山麓駅付近のロッジからも雲海が見えちゃう標高です。もはや勝ったも同然、雲海を我らが手中に。 我々は下山後の諏訪観光や甲府観光、甲府の宿はどこにしよう温泉に入りたいお土産に何を買おうか…と、それはキャッキャウフフしていました。そう、その日までは。

2020-02-13 18:00:53
bao @baobabustroll

大した勢力ではありません。出発時点の予報では、登山する2日目に西日本は台風の影響下で大荒れですが、我々の目的地の予報は晴れ時々曇り。協議の結果、我々はギリギリいけそうだと結論しました。ロープウェイの麓まで行こうそこで動かなければ雨の諏訪観光なり甲府観光でいいじゃないか。 pic.twitter.com/SKD11oE12c

2020-02-13 18:09:21
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友人は知らなかったのです。 私の渾名が「気象兵器」である事を。

2020-02-13 18:11:23
bao @baobabustroll

物心ついて以来大抵の夏イベントを台風でぶち壊して来た私にとってはこれしきの台風なぞ想定の範囲内、なんなら台風を見込んで飛行機での移動を避けたくらいなので余裕のよっちゃんです。直撃以外はかすり傷です。

2020-02-13 18:29:52
bao @baobabustroll

ちょっとした雨(豪雨)の中の山歩きを想定し、学部学生時代の趣味だったキノコ探しの為の低山徘徊で揃えたフルゴアテックス装備一式で臨んだ私に対し、友人の装備は…なんというか貧弱でした。特に足元が。登山靴というより…「運動靴?」「うん、私運動できる靴これしか持ってない」

2020-02-13 21:44:54
bao @baobabustroll

気象兵器とシティガールの不穏な旅の幕開けです。

2020-02-13 21:44:55
bao @baobabustroll

不安そうな私に友人は微笑みました「大丈夫、この靴で高校の時に富士山も登ったもの」つまり信頼と安心の15年モノです。 オッケー大丈夫、我々の目的は雲海であって山ではない。旅程の一番しんどいところはロープウェイという文明の利器がなんとかしてくれる大丈夫大丈夫。

2020-02-13 21:51:57
bao @baobabustroll

初日は中央線から山梨に入り、甲府に立ち寄り昼ご飯と信玄餅を食べて鹿皮印伝の店を覗き、更に茅野へと向かいました。甲府盆地の薄曇りのじっとりした暑さから一転、茅野は爽やかに晴れ、我々はロープウェイ行きのバスを待つまでの時間で茅野の街を見て歩く事にしました。

2020-02-13 22:02:22
bao @baobabustroll

御柱祭の柱を見ることができる公園で「これ乗って斜面を下るとか死しか感じない」的な感想を述べながらフラフラと歩いていたら、友人がふと立ち止まりました。 「靴底が剥がれた」 左の靴底の滑り止めのゴム層がクッションウレタン層からペロリと剥離して、哀れにも爪先部分で僅かに繋がる状態でした。

2020-02-13 22:02:23
bao @baobabustroll

爆笑です。爆笑しかありえません。 とりあえず2人で腹筋が崩壊するほど笑いました。知らない人が見たら気が違ったと思われたでしょう。

2020-02-13 22:04:05
bao @baobabustroll

ひとしきり笑い、我に返りました。「明日の山どうしよう」 そうです我々には明日山歩きが控えているのです、しかも多分雨天。 この時点で明日の天気予報は蓼科で曇りのち午後雨、山梨は朝から雨。 「茅野の駅で靴屋を探そう」

2020-02-13 22:07:38
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結論から言うと靴屋は見つかりませんでした。茅野を舐めていました。日曜日の茅野はゴーストタウン(在住の方申し訳ありません)で、ショッピングモールらしきものに人影はなく、僅かに残る店も本日休店の文字。友人が歩くたびに「ペタンコペタンコ」と、ほぼ剥がれた靴底が滑稽な音を立てます。

2020-02-13 22:11:28
bao @baobabustroll

茅野駅前の小売業はなぜこれほど崩壊してしまったのか。おそらく郊外の大型ショッピングセンターに顧客を奪われて衰退したのでしょう。行きずりの観光客が無責任にものを申すことは出来ませんがこれが「均一化する地方都市」の現状が…などとぼんやり考えながら、ピンチです。

2020-02-13 22:17:54
bao @baobabustroll

途方にくれる我々がとりあえずバス停に向かおうと行く道に、なんということでしょう小さな雑貨店が。小学校が近いことを鑑みるに、おそらくこの店は子供達の文具や雑多な学用品、駄菓子などを扱うことで時代の波に取り残されながら生き延びているのだ!などと思いつつ

2020-02-13 22:26:53
bao @baobabustroll

天の助けと店に入ればそこは昭和でした。元々は手芸用品であったようで、吊り下げられた雑貨の奥にいつから置いてあるのかわからないボタンや刺繍糸の見本が貼り付けられた紙箱が所狭しと並んでいます。 店にふさわしい昭和感溢れる店主に接着剤があるかと訊ねると、多目的ボンドを出してくれました。

2020-02-13 22:26:54
bao @baobabustroll

友人はその多目的ボンドを手に取り裏書きされた接着剤できる対象素材などを改めると、頷きました。 「ドイツ製だ、これでいこう」 ドイツのぉぉ!科学力はぁぁ!世界一イイ! 謎の信頼です。何が友人にそこまでドイツを信じさせるのか全くわかりませんがオッケー大丈夫。ドイツ製だもん大丈夫大丈夫。 pic.twitter.com/FQsCV4J062

2020-02-13 22:33:56
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おそらくこの旅のキーアイテムであろう接着剤を手に入れ、我々はバス停にペタンコペタンコとたどり着きました。予定通りのバスに乗り「うおお!マジで長野には穀物は蕎麦しかないんだね!(失礼)」「レタス!レタスあるよ!」と車窓から見える畑に異郷を感じながら標高はどんどん上がって行きます。

2020-02-13 22:41:24
bao @baobabustroll

思い出すままにつらつら書いてるんですけど、これは果たして需要があるのか不安です。しかし私が楽しいので続けます。

2020-02-13 22:44:24
bao @baobabustroll

息子氏が寝ながら何やらウニャウニャ言い始めたので中断しますが続きます。

2020-02-13 22:54:55
bao @baobabustroll

我々以外に客の居ないバスの車内ではしゃぎながら、意識はやはり靴底に向かいます。「宿に着いたらまず靴底をどうにかしよう」2人の心は完全にシンクロしていました。 霧の中を1時間近く揺られてたどり着いた山麓駅はしっとり濡れ、眼下には夕陽に染まる壮麗な雲海が広がっていました。

2020-02-13 23:15:44
bao @baobabustroll

我々は霧ではなく雲の中を進んでいたのです。 つづら折りに登ってきた路は橙と白の柔らかな重なりの中に消え、遥か山々すら届かない高みに台風のもたらす紫が見えたと思います。 我々はしばらく無言で陽が傾くのを眺めていました。 「明日登れなくてももういいや」 本心からそう思いました。

2020-02-13 23:15:45
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予約していたロッジは閑散としていました。明日入山予定だったチームがキャンセルしたのだそうで、急にできた暇を持て余したのか宿のご主人は我々に八ヶ岳への篤く深い愛と明日の天気が許すなら見てほしい見所を語ってくれましたが、靴底が気になって耳に入ってきません。

2020-02-13 23:20:02
bao @baobabustroll

ご主人に譲ってもらった新聞紙で霧と雲に濡れた靴をよく拭き、ドライヤーで乾かしドイツ製の接着剤を左の靴底にたっぷり塗り貼り付けて、念の為と右も確かめるとそちらも剥がれかけていました。 (この靴…ヤベェ) 見合わせるお互いの目がそう語っていました。

2020-02-13 23:24:05
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右の靴にも処置を施し、より一層の圧着を期待してペットボトルを重石にしました。部屋に溢れる有機溶剤の臭いが不安を掻き立てます。夕飯を頂き、風呂を済ませ、祈りながら床につきました。 泊まった部屋に備え付けられた天窓は雲で塞がれて、星はチラとも見えませんでした。

2020-02-13 23:33:42
bao @baobabustroll

翌朝は不思議なほど晴れていました。 天気予報では富士山側の山梨での大雨を告げていますが、とにかく青空が見えました。昨日念入りに接着した靴底を引っ張ってみましたが、ぐらつく様子はありません。 「いける」 いくしかない。

2020-02-13 23:40:17
bao @baobabustroll

今日はここまで。 読んでくださってありがとうございます。続きます。大抵の伏線が回収されますご安心下さい。

2020-02-13 23:46:29
bao @baobabustroll

「やっぱり茶臼山に登って欲しいけど天気を見て無理をしないでね」ご主人の八ヶ岳愛に送り出された我々の泊まったロッジから山麓駅までのんびりと歩いて10分の登り坂、友人は一歩一歩確かめるように靴底に意識を集中しています。 「大丈夫、いけそう」 今、我々にはドイツの科学力がついています。

2020-02-14 08:32:37
bao @baobabustroll

空は雲がちですが隙間から覗く青空は深く、夏山にしか許されないたっぷり水を含んだのに清々しい朝の空気を胸いっぱいに吸い込みました。我々はこれから始発に乗り込み、標高2000m超まで一気にロープウェイで運ばれるのです。なんという楽で楽しい旅路でしょう。

2020-02-14 08:36:21
bao @baobabustroll

「人…居ないね」 期待にパンパンになりながら山麓駅に到着した我々に一抹の不安がよぎりました。 観光バスがずらりと並べるであろう広大な駐車場はがらんとして、その向こうに見えるロープウェイの駅に人影はありません。 運行状況を確認してから出かけたものの、ロープウェイまさかの運休?

2020-02-14 08:40:15
bao @baobabustroll

幸いなことにロープウェイは動いていました。人が居ないのはやはり天候がこれから下り坂である為でしょう。券売所で「てことはもしや貸切?貸切?」と、ぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぎ、意気揚々と乗り込んだロープウェイは本当に貸し切りでした。私と、友人と、係員さん、3人。 …3人。

2020-02-14 08:44:01
bao @baobabustroll

我々は2人ともATフィールドが強固なので、その場に1人でも知らない人が居ると借りて来た猫よりもおしとやかになります。若干がっかりしながら車内を見回すと、定員100人のロープウェイの床には奇妙なものが点々と積まれていました。コンクリートブロックをひと回り大きくしたようなものが3個1組。

2020-02-14 08:52:03
bao @baobabustroll

ATフィールド全開な我々と係員さんを載せたロープウェイの行先はいかに⁈ 床に積まれた塊の正体は⁈ 続きは昼休み(あれば)にお届けします。

2020-02-14 09:04:39
bao @baobabustroll

係員さんは快く教えてくれました。「ブロック1個で20Kg、全部で300Kg、このゴンドラは大きいから人があまり乗っていない時はこうやって重りを載せてバランスをとるんだよ」 なるほど、大人1人60Kgとして50人分の重りかと見回す私の隣で友人がぽつりと言いました。 「成る程、清盛公の身代わり石…」

2020-02-14 17:25:50
bao @baobabustroll

ここ経ヶ島と違うから! たしかに人の代わりに石を載せてる訳だけど、そうじゃないから! 積み上げたブロックが陰を深め、空気が一気に古びた黴気を帯びたように感じられます。 凄いぞ想像力。 微妙な空気を孕んで、ゴンドラは山肌を滑るように登って行きます。

2020-02-14 17:25:54
bao @baobabustroll

賽の積み石もとい重石ブロックを避けて進行方向の窓に寄り、ガラスに張り付けば、ダケカンバやブナでに覆われた明るい緑の林が惜しい程軽々と過ぎ去って行きます。 並び立つロープウェイの支柱のほど近く、木々の隙間に遊歩道と思しき道が見えました。

2020-02-14 17:39:34
bao @baobabustroll

みるみるうちに林は針葉樹へと様相を変え、山頂駅に到着しました。薄暗い駅舎を出ると、坪庭と名付けられた広々とした砂利と岩がちの平地が開け、その先にこんもりと緑の山々が佇んでいました。正面が2300m級の穏やかな山容、雨池山、右が2400mの縞枯山、後はよくわかりません。

2020-02-14 18:54:19
bao @baobabustroll

さてこれからどうすべきか。行く道に雲は僅かです。しかし、南の峰の更に向こうに紫がかった暗雲の気配が素人目にもわかりました。退くかゆくか。 「かえろ!雲海も見たし!」 我々の欲しいのは雲海なので、雨池山に未練などありません、まして宿のご主人推しの茶臼山などどれなのかすらわかりません。

2020-02-14 21:36:04
bao @baobabustroll

坪庭と呼ばれる一周30分ほどの平地をぐるりと巡り、徒歩で下山することにしました。先程ゴンドラの窓からちらりと見えたあの遊歩道が下山ルートだとわかりました。道迷いは勿論、滑落の心配もなさそうなルートです。これなら多少雨に振り込められても大丈夫でしょう。 そう、靴底さえ無事なら。

2020-02-14 21:44:14
bao @baobabustroll

標高2200mの眺望貸し切りにはしゃいだ我々の脳裏に靴底の事などもはや僅かも残っていません。意気揚々と坪庭の砂利道を歩み、小さな岩をよじ上って記念撮影をし、高山植物を眺め、朝ごはんにと持たされていたおにぎりを食べてから下山ルートに入りました。

2020-02-14 21:52:06
bao @baobabustroll

下山道は所々軽くぬかるみ、真新しい足跡がいくつもついていました。 どうやら、昨夜を山で過ごした人たちが一足先に下山したようです。しかも複数のグループです。縦走登山だとしても、下山には早い時間帯です。天候悪化を避けたのでしょう。やはり登らなくて正解だったと我々はうなずき合いました。

2020-02-14 22:02:33