藤塚吉浩『ジェントリフィケーション』(古今書院,2017年)を読んだ。ジェントリフィケーションと銘打った唯一の専門書(タイトルには含まれないものであれば成田孝三『大都市衰退地区の再生』なども)。京都の西陣が対象地にもなっているので、前々から読んでみたかった。→
2019-09-13 10:35:20日本だけでなく、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンなど海外の都市の事例も多くあり、フィールドの広さに驚かされる。研究史についても、統計的な文献調査がなされており、いつ、どの分野でジェントリフィケーションが注目され始めたかがよく分かる。→
2019-09-13 10:35:21一方で、ジェントリフィケーションの本質論というか、都市論的な語りはあまり無かった。あと載っている主題地図が見やすいなと思ったが、『地図表現入門』の浮田典良先生が院のときの指導教官だったようで納得した。これに先んずる『ジェントリフィケーションと報復都市』も読んでみたい。
2019-09-13 10:35:21「ジェントリフィケーション」 ・定義:インナーシティの再開発に伴う居住者階層の上方変動 ・イギリスの社会学者Glassが最初に言及(1964) ・60sにロンドン、80sまでに西欧各国、90s以降に旧社会主義国で研究が進む
2019-09-13 11:27:57ジェントリフィケーションの問題点 ・既存住民の立ち退きを伴う ・家賃の上昇による直接的な居住への圧力 ・店舗の高級化による間接的な住み替え促進 ・立ち退いた住民がホームレスになる可能性も ・犯罪率の悪化などから最終的には地域に悪影響を及ぼす?
2019-09-13 11:38:39スーパージェントリフィケーション:国際金融市場や多国籍企業の雇用者などより高位の社会階層によるもの。 新築のジェントリフィケーション:空き地や工場跡地などを活用した再開発に伴う。住居の建て替えは伴わないが、間接的に地域を変える。
2019-09-13 11:40:04ジェントリフィケーションの要因に関する2つの立場 D.Ley…脱工業化による新中間層の台頭が原因(ジェントリファイヤー側の要因) N.Smith…地代の格差が原因(ジェントリフィケーション地区側の要因)
2019-09-13 11:40:31ニール・スミス(訳:原口剛)『ジェントリフィケーションと報復都市:新たなる都市のフロンティア』ミネルヴァ書房、2014年(原著:1996年) 藤塚吉浩『ジェントリフィケーション』の次はこちらを読んでみる。
2019-09-17 13:22:16『ジェントリフィケーションと報復都市』の原著は、全文webで読むことができる。 Neil Smith, 1996, The New Urban Frontier: Gentrification and the Revanchist City, Routledge. rohcavamaintenant.free.fr/USB%20KEY%20Fa… pic.twitter.com/1RIg4cVwsE
2019-09-19 03:02:22ロザリン・ドイチェ、カーラ・ライアン(1984)「ジェントリフィケーションとファインアート」 イーストヴィレッジにおけるアートは、カウンターカルチャーを装ってはいるが、政治的反省がなく、支配的な文化を再生産していると指摘
2019-09-17 13:25:16>ロンドンのドックランズやイーストエンドでは、失業した労働者階級の子どもたちから成るアナキスト・ギャングが「ヤッピー税」と称して路上強盗を正当化しているが、これは、トンプキンズ・スクエアのスローガン「ヤッピーから奪え」に英国風のひねりを利かせたものである。
2019-09-17 15:28:57原題:"The New Urban Frontier: Gentrification and the Revanchist City" 邦題:『ジェントリフィケーションと報復都市:新たなる都市のフロンティア』 「フロンティア」はアメリカ独自の文脈を持っているので、邦訳では主題と副題を入れ替えたらしい
2019-09-17 15:35:25第一章「アベニューBの階級闘争」 イーストエンドのジェントリフィケーションと、その抵抗としてのトンプキンズスクエアをめぐる闘争について。初めの章ということで、ややジャーナリズム的な文体。ニューヨークを全然知らない自分にはイメージが湧きづらかった。
2019-09-17 15:48:18クリス・ハムネットによれば、1980年初頭以降、ジェントリフィケーションに関する議論が盛んになったのは、それが①現代の大都市再編の最前線であり、②「立ち退き」という過程を伴うがゆえに適切な都市政策への問いを投げかけており、③シカゴ学派以来の都市理論では説明できない現象であったから。
2019-09-17 17:07:15ある韓国人教授の言 「合衆国では自分のことを語るのはとても気楽なのだとわかったよ。なにせ、それは主体のポジショナリティを明らかにすることだと呼ばれるのだからね」
2019-09-17 17:25:25第2章 ジェントリフィケーションはダーティ・ワードか? 「ジェントリフィケーション」という語がどのようなニュアンスを帯びているかについて。生産サイド(行政・ディベロッパー)の説明/消費サイド(住民)の説明という対比が、政治的な立場と対応していることを指摘。
2019-09-17 17:28:31【地代格差論(rent gap theory)】 「資本還元された地代」と「潜勢的地代」のギャップがジェントリフィケーションを引き起こす。 資本還元された地代:現状の地代,主に家賃 潜勢的地代:最も高度かつ最良の利用をしたときに資本還元される地代 本書の中心となる理論
2019-09-18 02:56:02フィルタリング:インナーリングのスラムから郊外の高級住宅へと居住分化が進むこと。それに伴い以下の現象が生じる。 ・ブロックバスティング:安値で買った住宅をマイノリティに高くで売る ・レッドライニング:特定地区に対する貸付拒否 ・ヴァンダリズム:建物を細分化して貸せる部屋数を増やす
2019-09-18 03:00:11第3章 ローカルな議論 —「消費者主権」から地代格差へ 本書の核となる地代格差論に関する章。マルクス主義に基づく理論が展開される。消費サイドからの説明か生産サイドからの説明か、という研究史的な記述も。ここは本書でもよく紹介される内容なので馴染みやすかった。
2019-09-18 03:09:01第4章 グローバルな議論――不均等発展 ジェントリフィケーションの要因は、前章で述べたような地代格差だけではなく、資本主義そのものがもたらす不均衡発展にあることが説明される。特定階級への資本の集約は特定空間への集中的な資本投下を促す。→
2019-09-18 19:20:21この点において、(一見正反対の現象である)郊外化とジェントリフィケーションは、同一の動力源から生じていることが明らかにされる。高い利潤を生みだすための空間の差異化がこれらの現象の本質だという。
2019-09-18 19:20:21ジェントリフィケーションとジェンダーの関係 「ジェントリフィケーションの大部分は、家父長制世帯の崩壊の帰結としてもたらされたものである。ゲイ、シングル、中心業務地区に職場を持つ専門職のカップルといった世帯は、都心の立地にますます魅力を感じるようになっている。→
2019-09-18 19:39:57→…ジェントリフィケーションの大部分は、専門職に従事するダブル・インカムの(あるいはより複数の収入をもつ)世帯に対応している。それらの世帯は、複数人の賃金労働者にかかる通勤費用を最小化するような比較的都心に近い立地を必要とし、→
2019-09-18 19:39:57→また(店舗が近くにあることによる)家事労働の効率性や、(クリーニング、レストラン、育児といった)家事労働を軽減させる市販商品の効率性を増すような立地を必要とする。」(Markusen 1981:32) 女性の役割の増大が立地選好の変化を招いたという指摘。とても納得がいく。
2019-09-18 19:39:58郊外化の時代は、都心-労働-男性/郊外-家事-女性という空間的役割分業が残っており、郊外居住が合理性を持っていた。しかし、女性の労働進出が進むと、職場・家・店が離れていることによる不都合が増し、都心居住の需要が増大した。(都心居住が進んだから労働進出が進んだ、は時系列的には誤り?)
2019-09-18 20:07:09誤りということでもないか。労働進出のほうが先行したとはいえ、都心居住がいっそう労働進出を促すという再帰的な方向も十分考えられる。
2019-09-18 20:08:48第5章 社会的な議論――ヤッピーと住宅をめぐって ニュー・ミドルクラス、女性、ゲイなど、ジェントリファイヤーの所在に関する議論を紹介したうえで、そのような消費サイドの説明だけでは不十分と指摘。筆者は、第3,4章のような生産サイドからの経済的分析と文化的説明を組み合わせるべきという立場。
2019-09-18 20:38:39第6章 市場・国家・イデオロギー――ソサエティヒル フィラデルフィアでの事例。民間組織や行政が手を組んで資本の引き揚げ・再投資を行ったことが示される。金融機関からディベロッパーへの資本の動きが具体的に描かれるものの、前提知識が無くあまりイメージが湧かなかった。
2019-09-19 01:37:28第7章 キャッチ=22――ハーレムのジェントリフィケーション? NYのハーレムでの事例。黒人の集住地区への白人の流入や、ミドルクラスの黒人を引き付けようとする動きなど。この章は地図が多めで話も具体的。
2019-09-19 01:41:07第8章 普遍と例外をめぐって――ヨーロッパの三都市 これまでは北米の諸都市が扱われていたが、この章ではヨーロッパの事例が検討される。アムステルダム、ブタペスト、パリを事例とし、ジェントリフィケーションに見られるグローバルな因子と、ローカルな差異を描出する。→
2019-09-19 01:50:54→住宅供給を担うのが公共部門か民間部門か、持ち家が多いか賃貸が多いか、住宅の建造年代が古いか新しいかなどが主要な分類軸となる。パリは伝統的に賃貸が多く、それゆえにジェントリフィケーションの発現が他の西欧都市よりも遅れたらしい。
2019-09-19 01:50:55地区の衰退が進む状況では、そこに存在する個々の物件を維持するメリットは薄く、その地区への投資が進む状況では、そこにある物件を放置するデメリットは大きい。それゆえ、建造環境への投資/資本の引き揚げは連鎖的に起こる。当たり前だけど重要なこと。
2019-09-19 02:12:17「一定規模の近隣荒廃は都市開発にとって不可欠の要因である」(アンソニー・ダウンズ) 投資の余地があることが重要
2019-09-19 02:14:25資本の引き揚げはどのように起こるか ・建物の維持、修繕の放棄、環境設備の取り剥がし(物理的放置) ・保険税、固定資産税の滞納(経済的放置) ・「取立屋」による家賃の回収 ・保険金目当ての放火(末期) ニューヨークでは1960年代から70年代後半にこの動きが進行(NYの財政危機と重なる)
2019-09-19 02:23:47ジェントリフィケーションは何によって測れるか →抵当貸付資本の大規模かつ継続的な増大(ただし、最初期の冒険的な投資を測るには不適当) ・ジェントリフィケーションの予兆を測る最も精度の高い指標は「地主による税金滞納の解消」
2019-09-19 02:33:37地主は所有物件の資産価値が上昇しないと判断すると、損失の増大を防ぐべく、税金を滞納する。しかし、再投資の可能性を感じ取ると、滞納による抵当流れ処分を避けるために、税金滞納を解消しようとする。それゆえ、税金の納入状況はジェントリフィケーション開始の指標として有用となる。
2019-09-19 02:36:27NYにおける固定資産税の滞納 ・1976年をピークとし、その後次第に減少。しかし、80年代末には再び上昇。 ・滞納が多かったのは、ハーレム、ロワー・イーストサイド、ベッドフォード・スタイベサント、ブラウンズヴィル、イースト・ニューヨーク、サウス・ブロンクスなど
2019-09-19 02:42:23ロワー・イーストサイドの事例 ・1976-77年に未納がピーク。その後1988年まで減少。 ・人口は1976年から82年まで減少。その後増加に転じる。 →ジェントリフィケーションにおいては、“経済的転換が人口的変化に先立つ”という仮説を支持する結果
2019-09-19 02:49:06第9章 ジェントリフィケーションのフロンティアを地図化する この章はかなり面白かった。固定資産税滞納の件数が増加から減少に転じた年次によって等値線を引くと、ジェントリフィケーションの進行が地図に表せる、というもの。この現象に「フロンティア」という用語が使われた所以がよく分かる。 pic.twitter.com/PaedsXAqEg
2019-09-19 03:11:58立ち退き運動当時のNY市長・ディンキンズの言 「公園はテント村ではありません。それは、キャンプ場やホームレスの寝床や麻薬常用者のたまり場でもなければ、政治問題を争う場でもありません。本来それは、マンハッタンのイースト・ビレッジが誇るトンプキンズ・スクエア・パークであるべきなのです」
2019-09-19 11:15:31「報復都市」とは(p.380) →「富める者」が「貧しき者」から都市を取り戻そうと、彼らを敵対者として煽り立てることによって分断された都市 pic.twitter.com/OOX1Id4D0P
2019-09-19 11:32:27第10章 ジェントリフィケーションから報復都市へ 最終章。1980年代末には「ジェントリフィケーションの終焉」が騒がれたが、それは誤りだったと指摘。最後はロワー・イーストサイドの事例に立ち返り、「報復都市」という概念を提唱。→
2019-09-19 11:49:23→「報復都市」は人種差別というアメリカ的文脈が強い概念。しかし、スミスは第8章で国外の事例を取り上げたように、普遍的な現象としてこれを見ている。実際原口氏がこの本を訳したのも、訳者のフィールドである釜ヶ崎との共通性を感じたからだろう。
2019-09-19 11:49:24ということで、『ジェントリフィケーションと報復都市』読了。ジャーナリズム、表象分析、研究史のレビュー、理論研究、実証研究、文化批評…実に様々な要素が詰まった本だった。読んでよかった。 twitter.com/Naga_Kyoto/sta…
2019-09-19 11:53:32『ジェントリフィケーション』のほうはレビューと事例研究が中心なので、理論を知るなら『…と報復都市』のほうを読んだ方がいいかも。 twitter.com/Naga_Kyoto/sta…
2019-09-19 11:59:24本書で提唱される理論は、ローカルな説明である①地代格差論(rent gap theory)と、グローバルな説明である②不均衡発展論(uneven development theory)の二つ。ニュー・ミドルクラスと脱工業化・消費社会化に関する議論も紹介されるが、スミスはこれには批判的。
2019-09-19 12:05:18①は地図的に理解できるうえ、よく紹介されるので分かりやすいが、②は今一つ捉えきれなかった。新自由主義批判の文脈だろうとは分かるが…。ハーヴェイの本を読むとよさそう。
2019-09-19 12:09:03面白いサイトを発見した。アメリカ全土にわたって、地区ごとの民族分布を見ることができるマップ。例えばニューヨークでは、アジア系が多いチャイナタウン、黒人が多いハーレムなど。マウスオンすれば地区ごとの細かな割合も分かる。 Mapping Segregation nytimes.com/interactive/20… pic.twitter.com/thzWP4Q7nb
2019-09-17 13:46:09都市社会学の聖地、シカゴ。まるでパイを切り分けるように、セクターごとの居住分化が見られる。黒人とヒスパニックが交互に分かれているのが面白い。アジア系はチャイナタウンの一部に固まっている。 pic.twitter.com/Xt3QFdg8Ae
2019-09-17 13:50:01