キリスト教はその始まりから、「奴隷」という身分に対して、両義的な立場をとってきた。
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『西洋美術とレイシズム 』岡田温司著、ちくまプリマー新書 365、2020.12.10. (p.17) 「T-Oマップ」ではハムがアフリカに、セムがアジアに、ヤペテがヨーロッパに割り当てられた。ジャン・マンセルの『歴史の精華』の挿絵では、ハムはターバンをかぶったムーア人のイスラム教徒として描かれている。 pic.twitter.com/oGiwzFY8MO

2020-12-19 22:29:22
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神の代弁者であるノアに呪われたために、奴隷となることを運命づけられたハムの子孫が、アフリカ北部の異教徒たちであるというでっちあげがここにある。 (p.19) 使徒パウロは、『ガラテアの信徒への手紙』3章28で、みな平等だという一方で、『エフェソの信徒への手紙』6章5では「肉による主人に従え」

2020-12-19 22:37:46
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と、現世の身の上に甘んじよと諭している。 (p.20) 📌キリスト教はその始まりから、「奴隷」という身分に対して、むしろ両義的な立場をとってきた。キリスト教における普遍主義とは、自分たちの一定の優位を担保したうえで成立してきたものにほかならない。(Buell 114)

2020-12-19 22:45:01
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(p.21) 旧約聖書の各エピソードを新約聖書(キリスト伝)のそれに対応させる読み方は、「タイポロジー(予型論)」と呼ばれて中世に練り上げられ、その対応関係を細かく図解した『教訓化聖書』なるものも盛んに制作された。ノアはキリストに見立てられている。

2020-12-19 22:56:03
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(p.22) 磔刑図で傷口に布を当てる使徒と目を覆う使徒が祝福されたセムとヤペテ、処刑人に相当するのが呪われたハムである。先の尖った三角帽(ユダヤ人であることを示すしるし)は12世紀後半以降の図像の中に頻繁に登場するようになる。 (p.23) 《ノアの泥酔》では、ハムは、ユダヤ人のステレオタイプ

2020-12-19 23:03:29
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の「鷲鼻」で描かれ、道化か旅芸人のようなかぶり物をつけている。 (p.29) 中世においてハムがあからさまに黒人の姿で描かれることはないが、タイポロジーにおいて「ノアの泥酔」に対応する「イエスの受難」の場面については、必ずしもそうとはいえない。

2020-12-19 23:21:58
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(p.30) 13世紀以降、イエスをからかったり十字架にかけたりする張本人を、ユダヤ人の姿で強調する図像が増えるが、ここに明らかに黒い肌をした人物たちが加わってくる。もちろん、聖書の中には、黒人がイエスを拷問にかけたとか、処刑に加担したという記述は一切ない。

2020-12-19 23:25:24
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それどころかゴルゴダの丘に上るイエスを、キレネのシモンなる男が手助けしたとされるが、キレネはアフリカ北部の町だから、シモンは褐色の肌をしていたと想定される。アフリカ人はむしろイエスの側に立っていたわけだが、逆に、敵対者に仕立て上げられていく。

2020-12-19 23:34:14
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(p.32) 《十字架の道行き》といった手写本が十字軍の時代に制作されたことを考慮するなら、ムーア人のイメージが投影されていると思われる。13世紀以降、イエスの受難の各場面で、ユダヤ人のみならず、黒人やムーア人とおぼしき人物たちが、イエスを苦しめる悪役として頻繁に登場してくるようになる。

2020-12-19 23:42:50
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(p.33) 大航海時代から大西洋奴隷貿易の展開において、奴隷制を正当化する根拠として持ち出されてきたのが、「カナンは呪われよ、奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ」というノアのセリフであった。キリスト教世界はまさに、ほかでもない聖書の文言のうちに奴隷制のお墨付きを担保してきたわけである。

2020-12-19 23:47:58
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15世紀から16世紀になると、王侯貴族の召使いとして、黒人の姿が絵の中によく登場するようになる。着飾った黒人の奴隷(小姓)は、主人のアトリビュートにしてステータス・シンボルでもあった。 (p.35) ティツィアーノ作品の黒人の少年は、多色で縦縞の上着をつけている。

2020-12-19 23:55:44
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西洋において古くから縞模様が「悪魔の布(パストゥロー)」とされ、疎外や差別の記号として機能してきたことにかんがみるなら、ティツィアーノの選択は偶然ではありえない。  とはいえ、貴人に従う黒人の小姓が、そのマスコットかステータス・シンボルのようなものであったとしても、必ずしも虐待や

2020-12-20 00:03:19
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隷属の対象としてみなされていたわけではない。レンブラントやベラスケスの絵には、類例にありがちな戯画化したり卑しめたりするような下心は感じられない。画家は、黒人のありのままの姿を見守るかのように忠実に記録している。

2020-12-20 00:13:00
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(p.39) 「厨房画(ボデゴン)」と称される手法は16世紀オランダ絵画の影響下に生まれたもので、しばしば「聖体」(キリストの肉と血としてのパンとワイン)を寓意するとされる。ベラスケスは《混血の女(ラ・ムラータ)》で、左上に小さく「エマオの晩餐」を描いている。 pic.twitter.com/I1SPJKUHMF

2020-12-20 00:22:40
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聖と俗の場面設定が逆転していて、イエスと二人の弟子の奇蹟よりも、彼らに食事の準備をする台所の光景のほうが画面を圧倒している。世俗の背後に聖書の主題が埋め込まれている。ここに、この混血のモデルを風刺冷笑するニュアンスはない。

2020-12-20 00:27:08
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この絵の10年前にフェリペ3世がモリスコ追放(カトリックに改宗したイスラム教徒(洗礼を受けたムーア人)を国土から追放する)暴挙に出ている時代背景を考えると、フェリペ4世の宮廷画家であるベラスケスは「ノアの呪い」を字義通りには受け取らず、むしろ抵抗の力として描いている。

2020-12-20 00:38:29
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(p.41) 大西洋貿易の盛んな16世紀から17世紀にかけて、「T-Oマップ」に代わり、アメリカを新たに加えた「四大陸の寓意」が描かれた。マールテン・ド・フォスの版画では、着衣の《アジア》と《ヨーロッパ》に対して、《アフリカ》と《アメリカ》は全裸の姿で、明らかな差別意識がある。

2020-12-20 00:45:37
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アルマジロの背に乗る「アメリカ」の女はネイティヴ・インディアンで、鳥の羽根のかぶり物(これはその後ステレオタイプになる)をつけて、弓矢を握り、背後で開拓者たちに倒されているのは先住民たちである。 (p.42) 「四大陸の寓意」という大西洋奴隷貿易の時代に隆盛してくるテーマには、

2020-12-20 00:53:56
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西洋から見たエキゾチシズムとセクシズム、そしてレイシズムとがひとつに合体したという側面がある。 (p.43) 「四大陸の寓意」は、イエズス会による新大陸への布教活動とも結びついていく。 (p.45) ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロの《アポローンと四大陸》の「アメリカ」には、カニバリズム

2020-12-20 01:03:15
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(人肉嗜食)が示唆されている。このフレスコ画が描かれた18世紀の半ばは、「科学」の名のもとにいわゆる人種概念が練り上げられつつある時代だから、居並ぶ4人の描き分けはなおさらいわくありげだ。

2020-12-20 01:09:43
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(p.46) 17世紀以来、西洋で人気を博した📌「静物画」の中に並べられた高価で珍しい品々も、侵略と搾取の賜物に他ならない。  ヤコブ・ファン・カンペンの《東方と西方からの贈り物をともなう凱旋行列》などの作品の源泉は、「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」にあるだけでなく、古代ローマで流行した

2020-12-20 01:16:34
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皇帝軍による戦勝と支配を記念する「トロパエウム(勝利の碑)」(「トロフィー」の語源となったもの)の図像にもとづいている。古代の「トロパエウム」において、高く掲げられたローマ軍の甲冑と盾の下に、屈服した属州の民たちがしばしば鎖につながれて描かれる。

2020-12-20 01:21:02
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カンペンの絵でも、日本の甲冑などの稀品を手に入れたオランダの力を象徴するものである。この絵は、まさしく、オランダの経済的「勝利」を記念する「トロパエウム」なのである。 (p.50) 西洋の植民地主義の中で生まれた図像に「まだらの黒人」がある。白皮症(アルビニズム)で生まれた現地の黒人の

2020-12-20 01:29:56
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子どもを描いたものがそれで、当時の西洋の画家たちは好奇のまなざしでその姿を記録した。フランスの外科医クロード=ニコラ・ル・カは、黒い肌を「病的な表皮」と呼び、それが剥がれることを「蛇の脱皮」になぞらえた。黒い皮膚の下から白い肌があらわになったとするなら、人間の肌は本来白いはずで、

2020-12-20 01:35:59
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それが黒くなったとするなら、何らかの悪しき病による、と考えた。「まだらの黒人」は病気ながら、人間本来の白い肌を取り戻しつつあるというわけだ。 (P.53) 18世紀になると、ハムの呪いはイギリスを経由してアメリカに渡っていく。

2020-12-20 01:44:04
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(P.55) ブレイクの「黒人の少年」という詩は、「ぼくの母さんは南の荒れ野で僕を産んだ / だから色は黒いけれど、おお! 僕の魂は白い」とはじまる。 (P.56) 「人種」をめぐる「科学」、つまり生物学的、解剖学的、人類学的言説、いわゆる科学的レイシズムの多くが、太古の聖書の話を「科学的に」

2020-12-20 01:49:13
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実証したいという欲望に突き動かされていた。人類は異なる起源を持つと主張する「人種多元論(Polygenism)」の支持者たちが根拠に持ち出したのが、聖書の権威であり、ノアの三人の息子の話だった。 (P.61) 優生思想の中のハムがあからさまに描かれているのが、モデスト・プロコスの《ハムの償い》だ。

2020-12-20 02:02:38
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(冒頭のつぶやきの本の帯にある絵)に描かれているのは、親子三世代である。左端には、黒い肌のブラジル先住民の祖母が「呪いが消えますように」と祈りを捧げている。真ん中で幼児を抱いている母親は、この祖母の娘で、白人との混血であろう、褐色の肌をしている。一方、彼女が抱いている幼子が真っ白い

2020-12-20 02:07:47
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肌をしているのは、右に腰掛けている父親が白人だからである。三世代を経てネイティヴは徐々に白人に近づいていくというわけだ。かくして、ハムの呪いは償われる。驚くべきは、この忌まわしい優生思想のイデオロギーが、伝統的なキリスト教美術の「聖家族」に則って描かれていることである。

2020-12-20 02:11:42
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この絵が描かれたのとほぼ同じ頃、進化論のチャールズ・ダーウィンのいとこフランシス・ゴルドンは、優生学を、人類にとって優良とされる血統だけを増進させる科学と規定する。この思想はその後、ナチズムに利用された。

2020-12-20 02:15:38
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(P.66) ノアとともによく知られた旧約の父祖にアブラハムがいる。妻のサラが身籠らないので、エジプトの女奴隷ハガルを夫のとこに入れさせイシュマエルを産ませる。ところがアブラハムが100歳の時にサラは妊娠し、イサクを授かる。サラの仕打ちからハガルは荒野へ逃れるわけだが、

2020-12-20 02:33:36
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聖書において、(天使を介して)神の祝福を受ける最初の女性が、エジプトの女奴隷であることは特筆されていい。祝福される者(イサク)と追放される者(イシュマエル)とに分かれるという点で、ノアの三人の息子と似ているが、追われた息子はハムとは違い、永遠に呪われるわけではない。

2020-12-20 02:38:38
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「わたしは、必ずあの子を大きな国民とする」(イシュマエルは12人の息子をもうけ、それぞれが別の部族になる)と神は明言しているのだから、排除しつつ同時に包摂している。包摂的排除のメカニズムが働いている。 (P.72) エジプトを「淫行」や「姦淫」や「不貞」のはびこる土地とみなすステレオタイプ

2020-12-20 02:45:16
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の偏見は、すでに旧約聖書の『エゼキエル書』でことさら強調されているから、「オリエンタリズム」の遠い起源はこんなところにもありそうだ。 (P.73) 一方、イスラムの側では、自分たちこそがイシュマエルの子孫であるという自負があったようだ。

2020-12-20 02:50:49
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(P.74) イスラムの伝統において、アブラハム(イブラーヒーム)が最初の「ムスリム」になるとともに、ハガルは、新たな文明を打ち立てるべく道を切り開いた先駆者とみなされる。 📌イスラム教の聖典『クルアーン』において、イブラーヒームは、イスマイール(イシュマエル)とイスハーク(イサク)とを

2020-12-20 02:55:32
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差別することなく平等に扱ったと説かれていることは、特筆すべきことである。『クルアーン』において、異母とはされるものの、イシュマエルとイサクの間にいかなる優劣や競合もなく、家族のいさかいもなく、ハガル母子の追放も説かれていない。性と民族と身分の差別にかかわる物語と読んできたのは、

2020-12-20 02:59:07
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むしろ西洋のキリスト教社会のほうなのである。 (P.75) 西洋中世では、ハガルとイシュマエルについても、タイポロジー的(予型論的)な読みが存在している。『教訓化聖書』では、ユダヤ人は教会(エクレシア)から追放され、聖体にあずかることはできず、ハガルとイシュマエルの追放はその予型なのだ。

2020-12-20 03:05:47
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ヴァチカンは1215年、第四ラテラノ公会議において、キリスト教徒に少なくとも一年に一回、聖体拝領を受けることと告解することを義務づける一方で、ユダヤ教徒には、それと識別できるしるしを身に着けることを求めた。これがユタヤ人差別に火をつけることになった。

2020-12-20 03:27:36
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そんな時に制作された『教訓化聖書』の挿絵で、ハガル母子はシナゴークに、アブラハムとサラは教会(工クレシア)になぞらえられている。当時のキリスト教内部には、ハガルの子孫をユダヤ人に重ねる見方もあったことになる。イスラムであれユダヤであれ、異教徒は追放されるものとみなされているのだ。

2020-12-20 03:32:56
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この対応関係の起源は、はるか以前のキリスト教の誕生時にさかのぼる。事実上のキリスト教の創始者とみなされる使徒パウロが、すでに一世紀の半ばにおいて、ハガルの子イシュマエルを旧来のユダヤ教徒に、サラの子イサクを、新たなキリスト教徒になぞらえていたのである。

2020-12-20 03:40:41
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女奴隷の子が古いユダヤ教の信奉者であるとするなら、自由人の子は新たなキリストの信奉者を象徴している。ローマ帝国による激しい迫害のさなかにあって、パウロは努めてユダヤ教との差異化を図ろうとしているのであって、ユダヤ教徒や女性や奴隷をことさら貶めることにその真意があるわけではない。

2020-12-20 03:43:44
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パウロの戦略的なレトリックは、迫害者であるローマ帝国に対して向けられていた。それを、反ユダヤや反イスラムのレトリックへとすり替えたのは、後の時代のキリスト教である。いみじくも『教訓化聖書』がこのことを証言している。

2020-12-20 03:53:37
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(P.89) ヤコブ・カッツの『結婚』においてハガルの教訓として評価されているのは、彼女の従順さ、謙虚さ、忠実さである。いかに過酷な運命であれ、女奴隷と庶子は、最終的に家父長の決断を謙虚にして従順に受け入れたというわけだ。つまるところは、よそ者の排除にほかならない。

2020-12-20 03:58:22
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宗教改革の指導者ジャン・カルヴァンは、荒野の母子をユダヤ教に結びつけたパウロの解釈を敷衍して、敵対するカトリック教会の象徴とみなした。 (P.93) インドの北部から11世紀ころに西方に移動をはじめたとされるジプシーが、はるばるヨーロッパ各地に出現するのは15世紀。

2020-12-20 04:06:13
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それ以来、彼ら流浪の民は、基本的に定住を当たり前としてきた社会にとって、ひとつの驚異にして脅威とみなされることになる。そのジプシーの代表的な仕事のひとつが占いで、そのすきを見て、何も知らない無垢な客たちから金や宝石をくすねとる手口が、17世紀には人気の絵画のテーマになっていた。

2020-12-20 04:09:17
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ジプシーは古くから、その語の響きが似ていることもあって、エジプトからやってきた民であると広く信じられていた。絵画の、平たくて丸い特徴的なかぶり物は当時、ジプシー女とすぐに識別できる目印のようなものであった。占いと窃盗という組み合わせは、17世紀のジプシーの表象において、

2020-12-20 04:15:07
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繰返し描かれてきた紋切型で、偏見を助長することにもなった。 (P.96) マティアス・ストムの《アブラハムのもとにハガルを連れていくサラ》は、子供の授からないサラが、自分の女奴隷を夫の床に入れるという、まさに『創世記』に語られている場面である。

2020-12-20 04:24:54
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初老のサラが、胸もあらわにした若いハガルを、老けた裸のアブラハムの床に連れてくるから、あたかも娼館の一コマのようにも見えて、ポルノグラフィーだ。老いた男と若い女という組み合わせはまた、当時やはり人気をとった「不釣り合いなカップル」というエロティックな図像の類型にもつながっている。

2020-12-20 04:25:14
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サラはまるで娼館の女衒か女主人のようにさえ見える。 (P.98) マティアス・ストムの別の作品では、エジプトの女奴隷にあえて白い肌の「仮面」を装わせている。そこにはクレオパトラやアンドロメダの表象にも通じる、西洋の潜在的な偏見と優越感が投影されているように思われる。

2020-12-20 04:30:59
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(P.108) ナポリでは「エスポジト」という名字が今も珍しくないのだが、これはもともと捨て子や養子・養女に充てられた名前であった。 (P.110) 18世紀になると、悲劇のヒロインとしてのハガルの特徴が顕著になる。光と闇のコントラストを強調した「テネブリズム」の色調の中、ハガルは悲しみのあまり

2020-12-20 04:44:25