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張りつく薄い寂しさ・傷を愛せるか
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『傷を愛せるか(増補新版)』宮地尚子、ちくま文庫、2022.9.10. pic.twitter.com/krb0ikKmDv

2022-10-29 16:17:56
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(p.53) DV被害者の自立とは、大きな喪失の過程でもある。愛や親密性をはぐくむ自信、世界は安全だという基本的信頼感。それらがすべて奪われる。  それらの喪失を認め、受け入れることは、新たな生活に向かうために必要だが、けっしてたやすくはない。

2022-11-03 16:40:28
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けれども、幸せを心から祈ってくれる「だれか」がいれば、被害者自身も幸せになりたいと願い続ける勇気、なれるかもしれないという希望を取り戻すことができる。twitter.com/kpuDycmpOpJIhK…

2022-11-03 16:40:29
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(p.57) 「あなたが幸せになっていくのを、わたしは見守っている」といった約束の言葉が、命綱になることがあると思うのだ。twitter.com/kpuDycmpOpJIhK…

2022-11-03 16:44:48
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ハンナ・アーレントは、「赦し(ゆるし)」と「約束」について語っている。彼女はそれらが「再開の可能性への賭け」になるという。復讐に対しての「赦し」、支配に対しての「約束」。  復讐とは過去のくりかえしであり、赦しは過去の呪縛からの解放になる。

2022-11-03 16:49:24
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支配もまた過去のくりかえしであり、過去の呪縛であり、強制であり、力ずくであり、一方的なものである。  「幸せになんてなれるはずがない」と思い込んでいた人、「幸せになんてなってはいけない」と思い込んでいた人には、過去の呪縛から解き放たれるための言葉が必要になる。

2022-11-03 16:52:33
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恐怖にすくんだ人が足を伸ばし、歩きはじめるには、未来を捕捉する言葉が必要になる。twitter.com/kpuDycmpOpJIhK…

2022-11-03 16:55:08
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(p.62) 開くこと、閉じること  細胞が減数分裂を起こすとき、いったん細胞膜は閉じて、内外の物質交換を停止するのだと、ずっと昔に教わった記憶がある。変わるときというのは、変化にほとんどのエネルギーや注意を費やさなければいけない。そのため、外からの攻撃に対しては無防備になる。

2022-11-03 16:59:50
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vulnerable (脆弱)な状態である。だから、変わるときには閉じなければいけないのだ。  だれとも会う気がせず引きこもり傾向にあるとき、ただぼうっとして何も建設的なことができない時、ただ時間を無駄にしているような気がする時、そのメッセージを思い出すと落ち着く。

2022-11-03 17:04:10
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世界にひとり取り残された気がして、自分なんて存在しなくてもいいんじゃないかと思ったりするときでも、「ああ、これは明日の出会いの前の静けさなんだ」と思える。  外からのインプットを排除して繭の中にこもる。そんなときにこそ中でなにかが醸成していたり、励起状態になっていって、まもなく

2022-11-03 17:08:43
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鮮烈な化学反応が起き、新しいものが生まれてくるかもしれない。  とりあえずいま、ぼうっとしつづけるための言い訳が見つかればよい。  移動する時と、ひとところにとどまる時。人に会う時と、一人でこもる時。クロスとは、交差してふれあうことであり、橋を渡し、越えることでもある。

2022-11-03 17:14:51
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(p.103) 「感情労働」とは、ひと相手の仕事において、働き手が自分の感情やその表現を適切に維持することであり、それによって相手の感情を調整することである。 [武井麻子『感情と看護』(医学書院、2001)]  感情労働は、さまざまな職種において要求されるにもかかわらず、かならずしも労働として

2022-11-03 17:24:05
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認識されておらず、心身への負担に見合う賃金を与えられていない。女性は気遣いをするのが当たり前と見なされ、女性に向くとされる職業の中には当然のように感情労働が組み込まれていることが多い。「スマイル0円」のように、働く人の心が経営戦略の下に置かれ商品化されることに感情労働はつながる。

2022-11-03 17:29:39
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感情社会学(sociology of emotion)の先鞭をつけたArlie Russell Hochschild は、感情労働を、表面的に役割を演じる「浅い演技」と、心からその役割になりきろうとする「深い演技」に分ける。そして深い演技を続けることで、自分の本来の感情がわからなくなっていくなどの弊害を指摘している。

2022-11-03 17:36:49
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いまや米国では、客室乗務員は感情労働を搾取されることがなくなった。とはいえ、最低限のホスピタリティ精神は残しておいてほしい気がする。他人に自分の感情をそのまま垂れ流さないことは、仕事というより、それ以前の大人としての礼儀だろうと思う。

2022-11-03 17:40:42
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医療現場はどうだろう。患者さんのほうが医師を怒らせないよう気遣わねばならず、感情労働を強いられている気がする。  病院(ホスピタル)やホスピスが、ホスピタリティと語源を同じくしていることはよく知られている。少なくとも「浅い演技」の感情労働は、医師にまだまだ要求されてよい。

2022-11-03 17:45:09
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むずかしい技法を学ぶより「スマイル0円」のステッカーを貼るほうが、ホスピタリティを身につけるには効果が高そうだ。  (p.119) 米国のネオリベラリズム(新自由主義)が危険なのは、弱みにつけ込むことがビジネスの秘訣として称賛されることで、弱さをそのまま尊重する文化を壊してしまうからだ。

2022-11-03 17:49:56
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医療をビジネスモデルで捉えるのが危険なのは、病いや傷を負った人の弱みにつけ込むことほど簡単なことはないからである。

2022-11-03 17:55:08
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(p.126) 男性の被害者を見ていると、性被害そのものよりも、そのために傷ついた「男らしさ」を必死で取り戻そうとすることのほうが、逆に傷を深めていってしまうという印象を受ける。ヴァルネラブルであってはいけないという縛りこそが、ヴァルネラビリティになってしまうという逆説が、そこにある。

2022-11-03 17:57:09
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(p.190) 我慢強い人は、我慢しない人には我慢ならないのだ。 (p.191) 「儀礼的無関心」という社会学の言葉がある。群衆のように、見知らぬ人が集まっている状況では、お互いに相手がそこにいないかのようにあえてふるまうことを言う。

2022-11-03 18:03:19
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[抜粋順序が戻るけれど、冒頭の章は書き下ろしである] (pp.10-16) 何もできなくても、見ていなければならない。目を凝らして、一部始終を見届けなければいけない。  拱手傍観(きょうしゅぼうかん)という言葉がある。手をこまねいたまま、そばで観ていることだ。 twitter.com/Tera_Palliativ…

2022-11-07 01:34:18
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眼の前で状況が悪化しつつあっても、本人や家族がいったん「底つき」をするまで、待つしかないこともある。  結局、大人になっても、医師になっても、自分が変えられることなどごくわずかでしかないことを、思い知らされつづける。

2022-11-07 01:34:19
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よけいなことをせず、ただ見守りつづけることもまた、むずかしい。そして苦しい。 ・・・そのとき、なにかが腑に落ちた。見ているだけでいい。目撃者、もしくは立会人になるだけでいい、と。

2022-11-07 01:34:20
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「なにもできなくても、見ていなければいけない」という命題が、「なにもできなくても、見ているだけでいい。なにもできなくても、そこにいるだけでいい」というメッセージに、変わった。  英語では、目撃することも証人も、「ウィットネス」という。

2022-11-07 01:34:20
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[(pp.32-41) 「内なる海」では、映画『海を飛ぶ夢』(アレハンドロ・アメナーバル監督、2004)をとりあげている]  ラモンの家族は、「生きていてほしい」と心底思っているからこそ、「死にたい」と願うことの権力性を正面から指摘できる。

2022-11-07 01:34:21
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宮地は、ロサの「判断停止」や潔さ、謙虚さに羨望を感じるという。「人ごとだからこそ自分の判断を停止させる」というロサの行為は、「人ごととしてごまかしつづける」ことからいちばん遠いと思うからだ。

2022-11-07 01:34:22
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「他者を愛する」とは、自分とはちがう存在、自分には理解できないもの、自分では受け入れられないものをもっている存在を、まさに自分には理解できないし、受け入れられないからこそ、尊重するということである。

2022-11-07 01:34:22
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けれどもそれは「他者から愛されない」ことを受け入れることであり、相手の選択が死であるときは、他者との「他者としてのつながり」さえも断ち切られることになる。twitter.com/Tera_Palliativ…

2022-11-07 01:34:23
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[(pp.194-96) 「張りつく薄い寂しさ」の初出は、朝日B、2010.3.17 。続くⅣ章「傷のある風景」は書き下ろし]  「がんばれば報われる」ことを疑い、「よい人」であることをやめたとき、薄い寂しさが襲う。asahi.com/articles/DA3S1…

2022-11-07 08:48:38
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薄い寂しさは、できたてのかさぶたのように、剥がしても剥がしても、微細な出血の上に、また張りついてくる。いっそのこと剥がさずにこらえてみれば、いつかポロッと落ちて、血色のよい健康な肌が顔を出すだろうか。そこに人がただ生きてあることの価値はみえてくるだろうか。twitter.com/chokusenhikaem…

2022-11-07 08:48:39
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(p.210) Foote, Kenneth E. は、『記念碑の語るアメリカ』で、米国において暴力や悲劇がいかに景観に刻み込まれ、社会の記憶をつくりあげてきたかを分析している。  彼は景観の変容を「聖別」「選別」「復旧」「抹消」という4つに分類する。

2022-11-07 09:07:12
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「聖別」は、慰霊碑や記念碑を建て、記憶を永続化させる行為。「抹消」はその逆で、事件の痕跡はすべて破壊され消し去られる。「選別」と「復旧」はこの両極の間にあり、「選別」はそこで重要な事件が起きたということを示す行為、「復旧」は事件の痕跡を取り払って元の状況や通常の使用に復帰させる。

2022-11-07 09:13:57
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過去を再解釈することによって調整や変更がなされ、抹消された場所が再発見されたり、聖別された場所が抹消されることもある。  景観の抹消への強力な動機づけとなるのが、恥辱である。  ベトナム戦没者記念碑は、そういう意味でも「負の遺産」=「傷跡」の保存の稀有な成功例である。

2022-11-07 09:20:03
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(p.219) PTG ( Post-traumatic growth ) 「外傷後成長」という概念は研究の俎上に載ったとたん、測定や評価可能な「因子」となってしまう。定義が決められ、「成長」の指標となる項目が選ばれ、質問票が作成される。「信頼性」「妥当性」を求めて、くりかえし測定がおこなわれる。

2022-11-07 09:28:03
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「病前性格」やPTSD症状の重さ、抑うつ度や社会的活動度との比較がなされ、相関関係が調べられる。  同じようなことは「レジリエンス」という言葉にもいえる。個人差が明らかになってくれば、「トラウマを負ったあと、なかなか回復しないのは、その個人のレジリエンスが低いからだ」といった自己責任

2022-11-07 09:33:02
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被害者非難の論調に簡単に転化しかねない。  イラク戦争の米兵のPTSD研究では、「トラウマ研究はいつから、戦っても傷つかない人間を増やすための学問になったのだろう」と思った。  潤沢な予算がPTSDの予防や治療の研究に注ぎ込まれることと、平然と戦地へ兵士を送り出すことは米国では矛盾しない。

2022-11-07 09:44:23
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予防や早期回復の対策は練られるが、派兵をやめようという提案にはならない。イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及されなされない。  臨床医学の学会で反戦を訴えても仕方がないし、招待された専門医相手に米国の政策批判をするのも意味はない。

2022-11-07 09:50:27
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PTSDという疾患概念が、ベトナム帰還兵の研究からに来たことはよく知られている。けれどもその研究は、さらなる戦争をも、さらなる兵士たちの受傷をも止めることはできなかった。

2022-11-07 09:56:01
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『包帯クラブ』(天童荒太著、ちくまプリマー新書、2006)  タンシオは、「名前がつけられたんだよ、〈傷〉だって。傷を受けたら、痛いしさ、だれでもへこむの、当たり前だよ。でも、傷だからさ。手当をしたら、いつか治っていくんじゃない」と言う。 pic.twitter.com/6LABWA9XLT

2022-11-07 10:05:43
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「何にもならないのはわかるよ。何にもならないことの証としてでも巻いていこうよ」  傷として名づけること。手当された風景を残すこと。それでも「何にもならないこと」もあるという事実を認め、その「証」を残すこと。  包帯クラブの迷いや悩みは、そのままトラウマ治療の迷いや悩みでもある。

2022-11-07 10:05:43
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傷の深さや、真実のありか、倫理的判断のむずかしさ。治療者側が感じる無力感や罪悪感。包帯クラブのメンバーに出せなかった答えは、トラウマ治療の専門家にも出せない。  けれど専門家だからこそ、無理やり線を引き、答えを出そうとして、よけいに相手の傷を深めてしまったり、無視してしまったり

2022-11-07 10:09:41
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していないだろうか。専門家だからこそ、自分たちが迷い、悩んでいることを、そして自分たちも傷つくことを隠そうとしていないだろうか。 (p.224) 傷を愛することはむずかしい。ただ、傷をなかったことには、しないでいたい。

2022-11-07 10:12:24
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傷のある風景から逃れることはできるかもしれない。傷のある風景を抹消することはできるかもしれない。けれども傷を負った自分、傷を負わせた自分からは、逃げることができない。記憶の瘢痕から身体が解放されることはない。

2022-11-07 10:17:26
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それでも、人は生きつづける。  傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷のまわりをそっとなぞること。身体全体をいたわること。ひきつれや瘢痕を抱え、包むこと。さらなる傷を負わないよう、手当をし、好奇の目からは隠し、それでも恥じないこと。傷とともにその後を生きつづけること。

2022-11-07 10:23:44
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傷を愛せないわたしを、あなたを、愛してみたい。 傷を愛せないあなたを、わたしを、愛してみたい。 (あとがき) 傷を抱えながら生きるということについて。  表紙には、Maya Lin のベトナム戦没者記念碑のスケッチを使わせていただいた。

2022-11-07 10:32:21
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映画『アメリカの森 レニーとの約束』は、ベトナム戦没者記念碑をジェイクが訪れるところで終わる。  傷のある風景が残り続けることによって、人はときに癒やされる。終わらない、長い「戦後」がそこに記される。🧵

2022-11-07 10:32:22