泣く犬飼さん

ななれん @nanareeen1

『大丈夫ですか』 なんて言葉は、かけられないと見てわかった。いつもの清潔感ある姿とは正反対の、無精髭にボロボロのスーツ姿。偉大な人を目の前で失い、やるせなさと未熟さに打ちのめされたあの日から、彼もまた暗闇に囚われているのだと葬儀に出てその姿を見るまで分からなかった。

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「…犬飼さん」 「…………」 声をかけても無言が返ってくるのは初めてで、彼の傷の深さが伺い知れた。やつれた様子に腕を取ると、案の定細くなっていた。 「今夜、そちらに伺います」 それだけ伝えると、旬はその場を後にした。 犬飼は何もかもが曖昧で周りの景色がただ過ぎ去る中、そっと腕を撫でた

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気が付くと家のリビングにいる。もう何日もそんな事が続いていた。心が傷を負い全てを放棄していても、身体は生きるために勝手に動くのがどこか不思議で滑稽だ、と、犬飼はぼんやりする頭で思った。 暗いリビングでソファに腰掛けると動けなくなってしまった。 「…お邪魔します」 暗い部屋で音がした

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影交換を使って旬が犬飼の家を訪れた声だった。 「電気、付けますね」 そういってスイッチを押すと部屋が明るくなる。 「……」 無言でいる犬飼をチラリと見て、旬はキッチンへと向かった。 「台所お借りしますね」 手に持っていたスーパーの袋を台所に置くと手早く調理を始める。

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旬は米を炊くと小さいおにぎりをいくつも作った。海苔を巻いて味噌汁と一緒に出す。 「小さいので、食べやすいと思います」 先程からじっと動かない犬飼の前にコトリと置くと、しばらく眺めていただけの犬飼がそっと手を伸ばして、手前のおにぎりを1つ手に取った。 パリ、と海苔の音をさせながら

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小さなおにぎりを頬張る。 ポロポロと、犬飼の頬に涙が伝った。 「…っぐ……っ、ーーッ、ふ、ゔ…！」 頬張ったおにぎりを噛み締めながら涙を流す犬飼の隣に旬が座る。 「……それ、食べたら寝ましょう」 背中に手を置いて慰める。そんな旬の頬にも、つ…と涙が伝っていた。

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犬飼はおにぎりを飲み込んで味噌汁で流すと、もう1つ手に取った。 背中に置かれた手から伝わる体温がひどく心地よくて、久方ぶりに心が安らぐのが分かった。 沢山あったおにぎりを少しだけ残して、犬飼がヨロ…と立ち上がる。 旬は無言でそれについて行った。

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ガチャリと扉を開けて寝室へ入ると犬飼はベッドへと倒れ込んだ。 「…着替えましょう」 部屋を見渡した旬が寝間着らしきものを見つけて犬飼に近寄る。 うつ伏せになっていた犬飼を転がしてスーツを脱がしていく。シャツも脱がした所でようやく犬飼が動いた。 パシリと旬の腕を掴む。

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「犬飼さん？」 「…」 「わ…っ！」 掴んだ腕をグイと引くと、その強さに旬がベッドへと乗り上げた。 犬飼は体勢が崩れた旬の服に手を掛けると頭から脱がそうとした。 「…自分で脱ぎますよ」 そういって犬飼の手を外させると旬はガバリと自分で服を脱いだ。 目の前の旬の裸体にそっと手を這わせる。

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犬飼の冷たい手が腹を辿って上に上がってくるのが、旬をなんとも言えない気持ちにさせた。 「あたたかい…」 ポツリと溢した犬飼の言葉に胸が痛くなる。 「……生きていますから」 「………」 音もなくまた涙を流す犬飼に、酷なことを言った自覚のある旬はグッと口を噛み締めた。

ななれん @nanareeen1

「俺たちは、生きているんです…。生きて、守らなきゃいけない。それが、あの人に守られた理由だから」 「………」 「でも、1人で守る必要はないです。一緒に、大切な人達を…この国を、守りましょうよ。犬飼さん」 犬飼から伸ばされた手を掴み、旬は犬飼の事を引っ張り後ろに倒れる。

ななれん @nanareeen1

今度は犬飼が体勢を崩して、旬を押し倒す形になる。 「一緒に…」 犬飼の頬に手を伸ばして触れる。頬には犬飼から流れた涙がいくつも降り注いだ。 そんな旬の姿に、犬飼はゆっくりと自分の肌を重ねていった。

ななれん @nanareeen1

湿っぽい犬旬もなかなか…、 なかなか…… 半裸でベッドの上に乗りあげて慰め合う男2人っていう図が似合うのは犬旬ですね……

ななれん @nanareeen1

以上、涙を流す犬飼でした。 えちちは皆さんの脳内で補完してください…！ えちち補完計画……