#創作小説 【自分だけがいない世界】 ウユニ塩湖にいつか行ってみたい。 雨期の狭間に現れる晴れた日に、青空が足下までいっぱいに写りだされた青の世界で。 透き通るような空気の中、空の青と雲の白が交じるなか、私だけが異物。 あんな綺麗な場所ならば、そのまま私の色がすうっと薄れて
2022-08-21 07:31:06消えていってしまいやしないかと。 そんな世界を夢見てしまう。 目を閉じて夢想する。 壁にもたれて頭を預け、そのまま自分の存在が壁に融けるように、色彩が薄れていくように。 そのまま古い現像写真のように、私がうっすらと消えていくところを考える。 自分だけがいない世界。 それをときに考える。
2022-08-21 07:33:55どうしてか、いつからかそんなことを考えだしたのかは分からない。 ただ、ふっと、そんなタイミングが訪れるときがある。 それはきっと、皆にも訪れるふとした空白なのだろうと思う。 駅へ向かう。学校へ、会社へ。 人混みに紛れていると、少しだけ肩を丸くして足元を見つめている人がいる。
2022-08-21 07:36:01そういう人を見つけると、目を閉じて、すぅ、と自分の存在が薄くなるように考えてみる。 目をゆっくりと開けると、肩を丸くしていた人は大きく溜息をついて、ゆっくりと前に歩き出す。 それで良い。それが良い。 あの人が薄くしようとしていた存在の透明度は、そのまま私の中に降り積もる。
2022-08-21 07:38:15透明な色彩が重なり、灰色の私がどんどんできあがる。 ウユニ塩湖には似合わない。世界の中で色褪せた私。 でも、それで良い。 薄れてい消えようとしている人の、ほんの僅かな肩代わりをして(でも根本的な解決にはなっていなくて)微かに前を向く力の一部になって、(その人の苦しさは変わらなくて)
2022-08-21 07:41:01そうしていつか、グレースケールな私だけが出来上がる。 私が見ている世界は、私だけが私の視界に入らない世界。 私の世界は、私だけがそこにいない世界。 ならばせめて、グレースケールな額縁のように、世界を外から眺めていたい。 私が望むのは、私だけがそこにいない世界。 そんな世界は、きっと
2022-08-21 07:43:53これまで通りに美しくて、汚いなんの変哲もない世界なのだろう。 そう書かれた手紙が机の上に残された。 僕には彼女が分からなかった。 彼女の視界に彼女自身が写らなかったように、僕の視界には僕だけが写らないのだから。 僕の世界から、彼女がいなくなってしまった。 彼女は知らなかったんだ。
2022-08-21 07:46:38彼女も世界を彩る一つであったということに。 人から透明を引き受けるたびに、彼女は色褪せていった。 誰にも気付かれず、誰も見つけられず。 残された手紙を見て、僕だけが彼女を思い出す。 だけど、 こんなにも思い描きたい彼女の顔が頭に浮かべられない。 綺麗に輪郭をも消し去って、
2022-08-21 07:49:04僕の前から彼女は消えてしまった。永遠に。 彼女だけがいない世界は、僕にとって悲しみが中央に在り続ける世界になった。 いつか、彼女の手紙のように、目を閉じて意識をすぅっと透明になるように願えば、僕も同じように消えていってしまえるのだろうか。 在りし日に思い浮かべた、青年時代の僕の
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