「いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く」というタグに参加してみた結果。 いいねの数に追いついたところで締め切り、終了。
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倉田結 @kurata_s8h

1. 「江澄待てっ…!落ち着けっ…!」 「うるさい!俺はあの馬鹿を殴らんと気が済まんっ!」 「お兄ちゃんもお前の気持ちは尊重したいけどもっ…!!」 背後から江澄を押さえていた魏無羨が叫んだ。 「あの沢蕪君の中身は思追なんだよっ!!」 「…………は?」

2022-10-08 23:29:53
倉田結 @kurata_s8h

2. 所用で雲深不知処を訪れた江澄は出迎えてくれた人物に眉を寄せて首を傾げた。 「藍宗主、そちらは……?」 藍曦臣の隣に初めて見る年若い顔がある。校服と抹額を纏い、曦臣の隣に立つその者の雰囲気は門弟のそれではない。対等かそれよりも上のように感じる。 「じつは……叔父上なのです」

2022-10-09 00:07:25
倉田結 @kurata_s8h

3. 「懐桑。今朝、江公子と楽しそうに話していたね?」 「ああ!いつか蓮花塢の邸に遊びに行けたら江兄の部屋に泊めてくれるって…約束、を……」 目の前で微笑んでいる曦臣の目が冷たい。背筋に薄ら寒いものが走り、この先の返答を間違えてはいけないと懐桑は本能的に感じ取った。

2022-10-09 00:59:08
倉田結 @kurata_s8h

4. 「ああ…どうして……どうしてこんな事に…っ…」 真っ赤に染まった両の掌を見下ろして曦臣は嘆いた。ぱたりぱたりと指の間を伝って落ちる雫が衣に染みを作っていく。 「これではっ…!阿澄に美味しい甘味が作れませんっ…!!」 涙する曦臣に江澄は言った。 「貴方は力加減を覚えた方が良い」

2022-10-09 23:08:13
倉田結 @kurata_s8h

5. 突然義兄が訪ねてきた。どうせ面倒事を持ち込んだのだろうと思い、不機嫌そのものの表情を浮かべて出迎えてやれば魏無羨はへらりと笑って幼子を二人並ばせ胸を張った。 「聞いて驚け!この子たちは藍氏双璧だ!」 やはり面倒事だ。追い返そう。そうしよう。ばちりと小さく紫電が呼応した。

2022-10-09 23:31:36
倉田結 @kurata_s8h

6. 話があると言ったにもかかわらず、ひたすらに黙して座す男にいい加減付き合いきれんと、江澄が声を荒げようとした時だった。 「江晩吟。魏嬰と兄上が君の話ばかりする」 「だから何だ?」 「……数日、泊めてもらいたい」 心底嫌そうな声で言われたそれは、どうやら藍忘機の家出宣言らしかった。

2022-10-10 00:21:37
倉田結 @kurata_s8h

7. あちらこちらに傷を受け膝をついた江澄を庇うように、既に多くの血を流し満身創痍の魏無羨が江澄を腕の中に閉じ込める。 江澄が色を失いながらも怒声を上げれば義兄は血の気の失せた顔で不敵に笑ってみせた。 「夫たちの…ご到着だ…!」 白い衣を纏う二つの人影。その一つに胸が熱く震えた。

2022-10-10 02:28:19
倉田結 @kurata_s8h

8. 「なあ藍湛?沢蕪君はさっきから厨で何をしてるんだ?」 「小鳥が摘んで来た花を飾っている」 「へぇー。いや何で厨に?」 「道侶に手料理を振る舞ってもらう礼だと聞いた」 「え!道侶いたの!?誰?」 「……江晩吟」 「…………」 衝撃で文字通り固まった道侶を忘機はそっと抱き締めて隠した。

2022-10-10 03:02:41
倉田結 @kurata_s8h

9. もうまともに音も光も捉えられなかった。あの日もし、と考えたところで詮無い事だ。それにあの人とたった一度交わした口付けは今日まで俺を支えてくれた。だからもういい。擦り切れた心を手放そう。 冷たい闇が広がっていく中で、ほうとひとつ息が零れ落ちた。 「……ああ……、……疲れた……」

2022-10-11 00:07:27
倉田結 @kurata_s8h

10. 「いいか江澄!絶対に!迂闊に分かったとか好きにしろとか言うなよっ!?簡単に言質を取らせるな!!」 「ただ茶を飲むだけなんじゃないのか?」 胡乱に見返してそう尋ねれば魏無羨はついと目を細めて肩を組んできた。 「どんな誘い文句を並べたか知らないけど、これは沢蕪君の作戦だ」

2022-10-11 01:06:29
倉田結 @kurata_s8h

11. 紫電を打ち下ろした江澄の背後に、地を這う大きな影が滑るようにして迫り鋭い牙をむく。だがその牙が江澄に届くよりも早く一筋の白刃が閃いて影を両断した。それに一瞥もくれず江澄は短く吐き捨てた。 「余計な真似を」 「魏嬰と兄上の為だ」 射日以来の共闘。互いに背を預けて得物を構え直す。

2022-10-11 02:00:38
倉田結 @kurata_s8h

12. 「ああ、阿澄…!急に呼び出してすまなかったね。とにかくまずはこちらへ」 曦臣に案内された先には幼い子供が二人。 「あにうえ、じゃんそうしゅ」 「え?ちがうよ?じゃんおじさんじゃない」 どういう事だと江澄は曦臣に目で問うた。 「何故か魏公子だけは記憶も退行しているようなんだ…」

2022-10-11 02:54:15
倉田結 @kurata_s8h

13. 黒く変色した血が口元にこびりついている。それを拭おうと指先を伸ばせば、いやに冷たい感触だけが伝わってきた。群を抜く美貌はいまや血と泥に塗れて汚れ、その瞳は何も映さない。 「…阿澄…?……阿澄っ…!」 震える声に応えはない。 誰がこの人を害した。純粋な殺意が曦臣の胸に渦巻いた。

2022-10-11 03:24:06
倉田結 @kurata_s8h

14. 頬を伝う汗を手の甲で拭うと、栓の開いた水筒が差し出され景儀は反射的にそれを受け取り喉を潤す。やはり相棒は気が利くなと目を遣って肩が跳ねた。 「えっ!?じ、江宗主っ!?」 まさか飲みかけを分けてくれたのだろうか。 その時。 「景儀……?」 冷然とした沢蕪君の声に、死を覚悟した。

2022-10-11 04:42:31
倉田結 @kurata_s8h

15. 啓仁が維持し続けていた結界が玻璃が砕けるのに似た音を立てて崩れ去っていく。喉奥から血がせり上がり咳き込むが、傍らで呪によって眠り続ける甥たちを背に庇う。これ以上時を稼ぐのは難しい。 だが啓仁は薄く微笑した。何故なら。 「藍先生、お待たせしました」 「いくぞ江澄!反撃開始だ!」

2022-10-11 05:52:52
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まとめたひと
倉田結 @kurata_s8h

デュラララ!!/平和島兄弟 ハイキュー‼︎/葦月 魔道祖師/忘羨.曦澄 他にも色々と好きな物を愛でながら、まったりのんびり生きています。癒されたいと常々思っているとっくに成人済みの生物。20↑