王宮から独り立ちし、外界での生活を始めたリチャードはある日町はずれの港で東の島国からやってきた半羊人の娘・リュウと出会う。 自分同様家を飛び出し、独り立ちを決意したリュウは父の旧友の女狩人を探しているという。 女狩人探しに協力するリチャードを待ち受けていたものとは?
0
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

いばらの壁の向こうから~双子の王子の物語~ 【Episode2】白馬の王子と角持つ娘 pic.twitter.com/WeWxsxjIaz

2021-04-25 19:51:49
拡大
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅰ】 「まだ遠くに行っていないはずだ、探せ!」 夜の帳が降りる頃、夜風を震わせ男のしわがれた怒号が響く。 朱塗りの立派な門の前で従者たちにげきを飛ばすのは大きな角を生やした厳めしい顔の壮年の男だ。 東の国で産出される上質な絹を惜しみなく使った豪奢な服から大店の主人か何かだとわかる。

2021-04-25 19:59:20
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「お嬢、どこですかー!」 「お嬢、旦那様が心配されます、お戻りくださーい!」 従者達は慌てて声を張り上げるがその声は夜の闇に吸い込まれるばかりだ。 …そんな光景を遠目に眺める小さな影が一つ。 慌てふためく従者たちに見つからないよう足音を忍ばせ、屋敷のある山道を静かに駆け下りていった。 pic.twitter.com/ORXgkWfVSe

2021-04-25 20:04:34
拡大
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

屋敷から離れた砂利で覆われた山道で小さな影は足を止めた。 見上げる空から地上を照らす満月が小さな影の姿を照らし出す。 影の主は小柄な娘だった。 先の身なりの良い男と同じく頭には後ろに曲がった大きな角、足元には毛足の長いふわふわの被毛。 膝から下は細く筋張っていて爪先には蹄がある。

2021-04-26 14:44:18
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

これはこの山に住む半羊人と呼ばれる種族の特徴だ。 やがて遠くから聞こえる「お嬢!」という従者の声が耳に入ると長く伸びた耳をピクリと動かして、娘はもう一度足場の悪い砂利道を、信じられない程素早く駆け下りて行く。 半羊族は山に住む性質上、岩場の移動に強いのだ。

2021-04-26 14:48:11
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

さて、それから半刻程後、港から一隻の商船が西大陸に向かって出港した。 ここは東大陸北岸の島国・サロペツク。高山と自然に囲まれた小さな国だ。 サロペツクでは山から採れる木材や養蚕業で作られる上質な絹をヴォストニアに輸出して国を存続するヴォストニアの衛星国の一つだ。

2021-04-26 14:55:31
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

東国独自の文化と自然とが調和した環境から生まれた工芸品は西大陸の貴族達からは贅沢品と重宝されており大変な人気があった。 娘の父親もそうした工芸品を生産する職人を多数抱えた貿易商だ。 だから娘はよく父親から西国の話を聞いていたし、実際に屋敷に訪れる西からの行商人達も目にしていた。

2021-04-26 15:01:47
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

ときにその娘はというと… 「ふぅ、なんとか見つからずにすんだな。チョロいもんだ」 波音だけが聞こえる真っ暗な空間で一人、誰に言うでもなく娘は小さな声で独り言ちた。 ここは貿易船の貨物倉庫の一角。 なんと娘は貿易船の倉庫に潜り込んだのだ。 「へっ、今頃家中騒ぎだろうな。ざまぁみろ」

2021-04-26 15:05:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

娘の心の裡に数刻前の嫌な思い出が蘇る。 「ふん、お前は女なんだから手習いと家のことをやっていればいいんだ。…職人になりたいだって?馬鹿なことをお言いでないよ」 そう母親は娘に向かって言い放った。 この女はいつもこうだ、自分のほうが兄達より頭が良くて仕事もできるのを知っているくせに。

2021-04-26 15:09:58
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

東国では未だ女の地位というものは低い。一般に女は年頃になれば良い家に嫁いで男児を産み、夫を支えて家から出ないのが常だ。 娘の母親もご多分に漏れず大店の主人の跡取りを産んだと鼻高々だった。 娘はそんな母親が嫌いだった。 否、母親と同じように退屈な生き方を押し付ける周りが大嫌いだった。

2021-04-26 15:13:23
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

しかし父だけは違った。 「リュウよ、お前には職人の才がある。賢いし口も立つから商売を勉強してみないか」 娘の才能を認め父親はいつも面白いものを娘に見せてくれた。 西国の本、珍しい調度品、職人達の仕事場、そして西国からやってくる珍しい身形の来賓達。 そのどれもが娘の胸をときめかせた。

2021-04-26 15:16:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

しかし保守的な母親はそれが気に入らなかった。娘の将来について度々夫婦喧嘩をすることもあった。 自分も父に従って将来は職人か商人になりたいと思っていた矢先に母親が言い放ったのが件の言葉だった。 これには遂に娘は頭に…というか大角に?来た。 そっちがその気なら実力行使に出る他ない。

2021-04-26 15:22:34
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

こうして娘は一大決心をしてこうして商船に密航、単身西国を目指したというわけだ。 なにも宛もなしに行くわけではない。娘には会いたい人物がいたのだ。

2021-04-26 15:32:24
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「彼女」はある日山道を巨大な熊や狼を荷車に乗せて遥々西から娘の父の元へやってきた。 黒く畝る髪は黒曜石のようにつややかで、女とは思えぬ巨躯は屋敷の従者の男共では太刀打ちできないだろうことは容易に想像がついた。 だが、その顔は娘の母親と違って凛々しく、そして優しかった。

2021-04-26 15:35:05
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

西国からやってきたその人は父の古くからの友人で、西の霊峰・エノク山脈の裾野の楓の森、通称紅の森からやってきた女狩人だった。 彼女には娘と同じ年の子がいたが、現在子は都に出ているので、森で一人で暮らしているらしい。 自然の中で逞しく自らの腕のみで生きる彼女は娘の憧れだった。

2021-04-26 15:38:53
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

話のわからない母親と違い…恐らく文化の差もあったのだろうが…彼女は娘の悩みに同調してくれた。 彼女の一人娘は今都に降りて獣医学を学んでいるという。 将来は畜産関係の仕事に従事し、家畜の健康を管理する獣医を目指すのだそうだ。 娘も彼女の子のように、自由に自分の人生を決めたいと思った。

2021-04-26 18:27:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅱ】 最新式の船が主流になりつつある今日ではサロペツクからヴォストニアの港までは3日もあればついてしまう。 倉庫に積んである積み荷の中の食べ物を少量ずつくすねて娘は悠々自適な船旅を楽しんでいた。 幸い倉庫は船室に近いため窓までついているので外の景色を眺めれば退屈はしなかった。

2021-04-26 18:30:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

持ち前の小柄な体のおかげで船室に船員が見回りに来ても入り組んだ積み荷の隙間に隠れてしまえば見つかることはまずない。 この日は燃料と追加の貨物を積むために中間地点の港に一時停泊すると見回りの船員同士の話を小耳に挟んだため、娘は一番奥の木箱の山の影に身を潜めていた。

2021-04-26 18:35:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そうしているうちにいつしか娘は眠ってしまったらしい。すると寝耳に何やら音が飛び込んできた。 これは…音?いや、声? 夕闇に霞む船室で娘は起き上がると恐る恐る積荷の影から倉庫の中を見た。 「あっ」 思わず声を上げ、足音を忍ばせて物陰から這い出す娘。

2021-04-26 18:40:09
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ぷー!ぷむー!」 何やら奇妙な声とも音ともつかぬものがけたたましく船室に響き渡る。しかしその音…声?には感情がこもっているように娘には聞こえた。 そう、これはやはり鳴き声だ。 それも悲痛な訴えだと気がついたとき、暗い倉庫の中で娘は声の主を見つけた。

2021-04-26 18:43:07
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

なんと倉庫の隅に置かれた粗末なケージに子豚が一匹挟まっているではないか。 子豚の体が小さかったのか、ケージの作りが粗悪だったのか、逃げ出そうとした子豚は体をケージの隙間に潜り込ませたのはいいものの、腹の部分で閊えてしまったようだ。 「ぷわー!」 助けを求めるように子豚が声を上げた。

2021-04-26 18:46:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「ちょっと待ってろ、今助けてやるからな!」 娘は格子を広げようと結わえた縄を力任せに引っ張った。 「ぷー!」 「もうちょいだ、がんばれ!」 娘が渾身の力で格子を拡げるとやがてスポンと子豚の腹が格子を通り、子豚はケージの外に放たれた。 「やった!」 小躍りする娘に子豚が駆け寄ってきた。

2021-04-26 18:51:27
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

まるで人の子供が親に泣きつくように子豚は娘の胸に飛び込んできた。 「よしよし、怖かったな、もう大丈夫だぞ」 娘は恐怖に鳴く子豚を抱き締めると積み荷の影に連れていき、 「腹減ってないか?これでも食って元気出せよ」 くすねた積み荷のりんごを一口かじって残りを子豚に差し出した。 pic.twitter.com/U2r7K00yOz

2021-04-26 18:55:52
拡大
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

そういえば父から聞いたことがある。 豚は家畜として肉にされたり不潔な環境に置かれがちだが元来とても頭がよく綺麗好きで、しかも大変社交的な生き物なのだそうだ。 鳴き声で仲間と交信し元来は群れで暮らすらしい。 確かにこんな暗闇に一人ぼっちで閉じ込められたら不安で泣きたくもなるのだろう。

2021-04-26 18:59:44
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

美味そうにりんごを食べる子豚を笑顔で見つめる娘。 「なあ、あたしぼすとにあに着いたらアンナさんのとこに行くんだ。 すごい狩人なんだぞ、お前も来るか?」 娘の言葉が通じるのか否か、 「ぷむー!」 子豚は嬉しそうに鳴いた。 「多分明日には着くはずだ、楽しみだな」 娘はもう一度子豚を撫でた。

2021-04-26 22:34:18
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅲ】 その日はとても美しい晴れ空で、春の花の香りを乗せた温かい風が心地よい日だった。 外界に降りて2日ほど経ったその日、リチャードは散歩がてら街を見学して回っていた。 従者もアンジェロすらもいない、ただ一人の散歩道。 今日は愛犬スリも留守番をしている。 初めての体験に胸が踊る。

2021-04-27 00:54:20
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

初めての一人の散歩がよほど楽しかったのか、リチャードは家からだいぶ離れた港まで来ていることに今更ながら気がついた。 「結構遠くまで来ちゃったなあ」 元来馬の足を持つリチャードにとってこれくらいの距離を歩くことなど造作もないことなのだがなんせ初めての独り歩きだ。

2021-04-27 00:57:56
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

普段他国を訪問したときなどでも大半は馬車での移動となるため直接こんな長距離を歩いたことは殆ど無い。 勿論、こんな町外れの港まで来たことも殆どなかった。 午後の穏やかな陽に煌めく海が眩しい。リチャードは陽の光を反射して瞬く波の輝きに目を細めた。 と。

2021-04-27 01:01:37
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「豚泥棒ーーー!」 そんな穏やかで美しい海にあまりにも不釣り合いな怒号が遠くから聞こえてきて、リチャードは面食らってあたりを見回した。 すると、 「わああっ、あぶねぇ!」 突然狭い建物の隙間から小さな人影が飛び出した。 「わ!」 短く叫ぶとリチャードは辛うじてそれを避け、衝突を免れた。

2021-04-27 01:03:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わ、わりぃ、急いでたんだ!」 飛び出してきたのは見慣れない服を着た小柄な娘だった。 そしてどういうわけか小脇にはまさに今し方叫ばれていたように子豚を抱えている。 「えっと…大丈夫?」 面食らいつつ娘に確認するリチャード。 「あたしは大丈夫なんだけど…って大丈夫じゃねぇよ!」 pic.twitter.com/J2JvTrBsyn

2021-04-27 01:07:53
拡大
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あ、あのさ、理由はちょっとアレなんだけど、どっかこの辺で隠れられそうなとこないか?ちょっと今…」 傍目から見ても一目で分かる困り顔で娘がリックに問う。 と、 「おい、そこにいんのか!」 低い男の声がして娘は豚を小脇には抱えたまま飛び上がった。 何やら事情がありそうだが…

2021-04-27 14:31:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「こっちだ!」 リチャードは娘の手を引いて元来た道を駆け出した。 ***** 「なあ坊っちゃん、この辺で豚を小脇に抱えた女の子見なかったかい?…調度おめえくらいの年なんだが…」 息を切らしながら船乗りと思しき大柄な男が、古道具屋の脇の小路の前で外套の埃を払うリチャードに声をかけてきた。

2021-04-27 14:37:57
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「はぁ、ほんと嫌になるよ。 その子ならさっき俺にぶつかって向こうに走っていったよ。 …感じ悪い子だよね、あの豚料理屋に高く売るとか言ってたから、追いかけるなら早いほうがいいよ」 反対の道を指差しリチャードは答えた。 「わかった、ありがとうよ!」 男は肩を怒らせ道の彼方に消えていった。

2021-04-27 14:40:41
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「もう大丈夫だ、出てきていいよ」 リチャードが声をかけると娘は子豚を抱きかかえて古道具屋の積み荷の影からゆっくりと姿を現した。 「超助かったよ、マジありがとう!」 埃だらけになった子豚をはたきながら半泣きで礼を言う娘。 「えーと、ところで…」 ちらとリチャードが子豚を見やる。

2021-04-27 14:44:42
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「その豚、盗んできちゃったの?」 ズバリ聞くリチャードに、 「人聞き悪ィ言い方すんなよ!こいつ、船の蔵の中で捕まってたんだ。 檻の格子に挟まって、あたしが助けてやらなかったら死んでたかもしんないんだぞ!」 ふんすと鼻を揃って鼻を鳴らす娘と子豚。 「え、船の蔵?君、船乗りなの?」

2021-04-27 14:48:01
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「や、あ、あの、なんつーか…あれだよ、その、えっと…客ではないけどとりあえず船には乗ってたんだよ!」 見るからに怪しい娘の証言を、 「豚を船の蔵から連れて逃げて…お客じゃないけど船の蔵に…」 リチャードが復唱する。 「ねぇ、それってひょっとして…」 「ば、バカ!みなまで言うな!」

2021-04-27 14:50:33
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

とりあえずどうやら訳有りであろうことはリチャードにも容易に想像がついた。 と、同時に、 「まあ、俺も少し前まで似たようなものだったから」 警戒しまくる娘に笑って返した。 「それに意外とそういう人、この国では珍しくないんだよ」 「は…?マジ?」 リチャードの言葉に目を丸くする娘。

2021-04-27 14:52:52
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

前述の通りヴォストニアはアポネを始めとする周辺国を短期間で制圧して領土を拡大した新興国だ。 領土拡大の恩恵は大きかったが勿論それに付随する不利益も存在する。 正確な国民数の把握もそのひとつだ。

2021-04-27 14:57:46
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

元来ヴォストニアは厳格な戸籍制度を敷いていたが、急激な領土拡大でそれが追いつかなくなっているのが現状だった。 そして大国の威光にすがろうと南岸から海を超えてやってくる移民や東大陸から安住の地を求めて迷い込んだ難民も数多く流入している状態なのだ。

2021-04-27 14:59:00
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

エリック王はそうした不法移民が悪事を働かぬよう国防諜報部隊レイヴンを国中のいたる所に潜ませ国全体を監視しているが、国に対して反逆を企てる者以外は現状「間借りさせてやって」いた。 というわけで、娘もそんな迷子の一人というわけだ。

2021-04-27 15:02:15
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「あのさ、助けてもらったついでにちょっといいかな」 大きな黒い瞳でじっとリチャードの瞳を見つめて娘が言った。 「この辺で紅の森って場所があるの、知らない?」 娘の言葉を耳にしてリチャードは目を丸くした。 「あんな人気のない場所になんの用があるんだい?」 思わず聞き返す声が上ずる。

2021-04-27 22:23:45
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「え、なんかそんなびっくりされるような場所なん?」 「うん、あそこは近くに楓糖を作る工場とそこで働く人たちの宿舎があるけどそれ以外の場所は手付かずの原生林だよ、ひょっとして楓糖を買いに来たの?」 娘は首を傾げた。 「かえでとうってなに?」 どうやらそこからして知らないらしい。

2021-04-27 22:28:10
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「その森に父さんの友達の狩人が住んでるんだよ、その人に会いにあたしは海を渡ってはるばる来たんだぞ!」 またしてもふんすと鼻を鳴らす娘とそれに倣う子豚。 出会ったばかりとは思えない息の合った芸風だ。 「そうか…今から行けば日が暮れるまでには着けるかな」 思案するリチャード。

2021-04-27 22:31:02
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「わかった、この街のこともまだ何もわからないだろ。俺もついていくよ」 リチャードは頷きながら娘を見て言った。 「マジで?!お前超いいヤツじゃん!たのんだ!」 嬉しそうにリチャードの手を握り娘が飛び上がる。 「俺も道について詳しくはないけど、この街の道に詳しい人を知ってるんだよ」

2021-04-27 22:34:43
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「すげえじゃん!いやー、あたしも運いいな、日頃の行いがいいんだろうな!」 うんうんとうなずく娘。 さっき密航して来たといったじゃないかと喉元まで出かかったがリチャードは言葉を押し留めた。

2021-04-27 22:39:25
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「俺はリチ…リック、街の郊外に住んでるんだ。君は?」 うっかり本名を名乗りそうになったものの、それはまずいと本名は伏せて渾名を名乗るリチャード。 そんなリチャードを見て、 「あたし?あたし、リュウっていうんだ」 娘は…リュウは明るい声で答えた。

2021-04-27 22:40:30
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

【Ⅳ】 「ほえー、すっげぇ、建物があたしが住んでるとこと全然違う…」 子豚を小脇に抱えながら見慣れぬ景色に見とれてリュウは誰に言うでもなく呟いた。 「東の大陸とは建物の構造が違うからね。 そもそも気候が違うから。 東は雨が多くて四季がはっきりしてるんだろ? こっちは冬が長いんだよ」

2021-04-29 01:28:26
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リチャードが答えるのを言葉半分に聞くリュウ。 どうやら何か気になることがあるらしい。 「なぁリック、さっきから気になってたんだけどさ」 改まった表情でリュウが切り出す。 「なんかあの怖い石像多くね?」 言ってリュウは道のいたる所にある石像を指差した。

2021-04-29 01:31:19
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

リュウが指差したのは大きな石造りの台座に座した巨大なコウモリに似た魔物の石像だった。 リュウの言う通り、町中の至る所に絶妙な感覚で設置されている。 「ああ、実はこれに用があるんだよ」 事も無げに言うリチャードをきょとんとした顔で見るリュウ。 リチャードは手近にあった石像の傍に立った。

2021-04-29 01:35:06
セーリュー(Seiryu) @SeiryuD

「失礼、ちょっといいかな、道案内を頼みたいんだけど」 リチャードはまるで普通の様子で石像に語りかけた。 すると… 「アラー、なんでございまショウ!ごようならなんなりト!」 妙に明るい声が石像から響く。 「?!」 思わずリュウは飛び上がった。 驚くリュウを尻目に石像がゆっくりと動き出す。

2021-04-29 01:38:50